光源氏が31歳の秋、二条東院が完成し、光源氏は明石の君を東の対に迎えようと計画します。しかし、明石の君は身分の低さや住み慣れた土地を離れることに不安を感じています。そこで、明石入道は京都の大堰川近くの山荘を修理し、明石の君をそこに住まわせることにしました。光源氏は紫の上に気を遣いながら山荘を訪れ、明石の君と3年ぶりに再会します。光源氏は明石の君との間に生まれた娘を引き取りたいと考え、紫の上にそのことを相談します。
登場人物 | 関係 |
---|---|
光源氏 | 主人公 |
明石の君 | 光源氏の愛人、娘の母 |
紫の上 | 光源氏の正妻 |
明石入道 | 明石の君の父 |
娘 | 光源氏と明石の君の間に生まれた子 |
本 文
ありし夜のこと、思し出でらるる、 折過ぐさず、かの琴の御琴①さし出でたり。そこはかとなくものあはれなるに、え忍びたまはで、②掻き鳴らしたまふ。まだ調べも変はらず、 ひきかへし、その折今の心地したまふ。
Ⅰ「 契りしに/変はらぬ琴の/調べにて/絶えぬ心の/ほどは知りきや」
女
Ⅱ「 変はらじと/契りしことを/頼みにて/松の響きに/音を添へしかな」
と③聞こえ交はしたるも、 似げなからぬこそは、身にあまりたるありさまなめれ。こよなうねびまさりにける容貌、けはひ、え思ほし捨つまじう、若君、はた、尽きもせずまぼられ たまふ。「 いかにせまし。隠ろへたるさまにて生ひ出でむが、心苦しう 口惜しきを、 二条の院に渡して、心のゆく限りもてなさば、 後のおぼえも罪免れなむかし」と④思ほせど、また、思はむこといとほしくて、えうち出でたまはで、涙ぐみて見たまふ。 幼き心地に、すこし恥ぢらひたりしが、やうやううちとけて、もの言ひ笑ひなどして、むつれたまふを 見るまま⑤に、匂ひまさりてうつくし。抱きておはするさま、 見るかひありて、宿世こよなしと見えたり。
またの日は京へ帰らせたまふ べければ、すこし大殿籠もり過ぐして、やがてこれより出でたまふ べきを、桂の院に人びと多く参り集ひて、ここ⑥にも殿上人あまた 参り たり。 御装束などしたまひて、「 いとはしたなきわざかな。かく見あらはさるべき隈⑦にもあらぬを」とて、騒がしき⑧に引かれて出でたまふ。
問 題
- 傍線部①、②の主語は誰か?次から選べ。( 作者 明石の上 若君 光源氏 )
- Ⅰ、Ⅱの和歌の説明としてふさわしいものを次から選べ。
- Ⅰは変わらない琴の音色を通じ、永遠に続く心を具現化し、Ⅱは変わらないと誓った約束を頼りに松の音に自分の音を重ねることを祈っている。
- Ⅰは契りを交わした二人の心が変わらない琴の調べのように永遠に続くことを願っており、Ⅱは変わらないと誓った約束を信じ、松の音に自分の音を重ねて二人の絆を強めている。
- Ⅰは琴の音色が変わらないように、二人の心もいつもつながって行くことを示し、Ⅱは松の音に自分の心音を重ねることで、変わらない約束を信じる心の鼓動を表現している。
- Ⅰは変わらない琴の音色を通じて、二人の心の絆が永遠に続くことを表現しており、Ⅱは変わらないと誓った約束を頼りに、杉の枝音に自分の心音を重ね、二人の絆を強めている。
- 傍線部③「聞こえ」、④「思ほせ」について、それぞれの敬語の種類と敬意の方向を説明せよ。
- 傍線部⑤~⑦の「に」の中でⅰ他と異なるものはどれか。ⅱまた、その異なるものを文法的に説明せよ。
口 語 訳
(明石の君のところで琴を弾き、その琴を残して別れた)かつての夜のことを、(光源氏は)お思い出しなさっていらっしゃる(その)時を見逃さず、(明石の君は)あの琴のお琴(七弦の琴)を差し出した。どことなくしみじみとしてくるので、(光源氏は)我慢がおできになれず、掻き鳴らしなさる。(あの時の)調べももとのままで、当時に戻って、あの時のことが今のようなお感じがなさる。
和琴(わごん)(雅楽の琴の一つ、最古の琴)/ 東儀秀樹
約束したとおりに今も変わらぬ琴の調べで、あなたを思い続けた私の心のほどは分かったでしょうか。
光源氏の歌。「琴」と「言」の掛詞。「琴」「絶えぬ」は縁語。
女は
心変わりはせぬとお約束なさったことを力として、松風の音に音を添えて泣いていました。
明石の君の返歌。「言」と「琴」、「松」と「待つ」「ね」は「琴の音」と「泣く音」の掛詞。
と詠み交わし申し上げたのも、(光源氏と)不釣り合いでないのは、身に余る幸せのようである。すっかりと美しくなった(明石の君の)器量、雰囲気、とても見捨てがたく、若君のことも、言うまでもなく、いつまでもじっと見守らずにはいらっしゃれない。「どうしたらよいだろう。世間から隠れてお育ちになることが、気の毒で残念に思われるが、二条の院に引き取って、思いどおり大切に世話をするならば、後になって世間の人々から非難も受けなくてすむだろう」とお思いになるが、一方では(若君と離れる明石の君が)悲しむことも気の毒で、お口に出すこともできず、涙ぐんで御覧になる。(若君は)幼い心で、少し人見知りしていたが、だんだん打ち解けてきて、何か言ったり笑ったりして、親しみなさるのを見るにつれて、(光源氏は)ますます美しくかわいらしく感じられる。(光源氏が若君を)抱いていらっしゃる様子はいかにも立派で、将来この上ないと思われた。
次の日は(光源氏が)京へお帰りになるので、少しゆっくりと寝過ごしなさって、そのままこの山荘からお帰りになる予定であるが、桂の院に人々が多く参集して、ここにも殿上人が大勢参上している。(光源氏は)ご装束などをお召しになって、「ほんとうにきまりが悪いことだ。このように発見されるはずのない秘密の場所なのに」と言って、騒がしさに引かれるようにしてお出になる。
探求的な考察
ゆうな:「ねえ、みんな、『源氏物語』の明石の姫君と紫の上の関係って知ってる?」
いさき: 「うん、知ってるよ。明石の姫君は光源氏と明石の君の娘で、紫の上に育てられたんだよね。」
ふあり: 「そうそう。紫の上は明石の姫君を娘のように愛情深く育てたんだって。なんでそんなに大事にしたんだろう?」
ゆうな: 「それはね、いくつか理由があるみたい。まず、光源氏が明石の姫君を将来重要な役割を果たすと考えて、紫の上に育てさせたんだって。」
いさき: 「それって、あとで東宮の后になる話ね。あ、それから紫の上自身も明石の姫君を本当に愛してたんだよね。彼女を美しく成長させるために一生懸命だった。」
ふあり: 「でもさ、紫の上って本当にそれで良かったのかな?光源氏の他の女性の子供を育てるなんて、ちょっとおかしくない?」
ゆうな: 「確かに、紫の上は光源氏の意向を尊重してたけど、自分の気持ちを犠牲にしてた部分もあるよね。」
いさき: 「そうだね。紫の上は理想的な女性って言われてるけど、実際には光源氏のために自分を抑えてたんじゃないかな。」
ふあり: 「そうそう。光源氏が他の女性と関係を持つたびに心を痛めてたし、特に女三の宮を正妻として迎えた時には大きな衝撃を受けたんだよね。」
ゆうな: 「最終的には心労が重なって重病になっちゃったんだよね。紫の上の人生って、愛情と苦悩が交錯する複雑なものだったんだなぁ。」
いさき: 「紫の上がもっと自分の幸せを追求してたら、違う人生があったかもしれないね。
明石の姫君と紫の上はどんな関係?
明石の姫君と紫の上は『源氏物語』の登場人物で、特別な関係。
明石の姫君は、光源氏と明石の君の娘です。彼女は幼少期に光源氏によって二条院に迎えられ、紫の上の養女として育てられました。紫の上は明石の姫君を実の娘のように愛情深く育て、美しく成長させました。
その後、明石の姫君は東宮(後の帝)に入内し、13歳で第一皇子を出産します。紫の上は明石の姫君の成長を見守り、彼女の人生に大きな影響を与えました。
光源氏が他の女性に産ませた明石の姫君を紫の上はなぜお世話したのでしょうか?
紫の上が明石の姫君をお世話した理由はいくつか考えられます。
- 光源氏の意向:光源氏は、明石の姫君が将来重要な役割を果たすことを予見し、彼女を手元に引き取り、紫の上の養女として育てることを決めました。
- 紫の上の愛情:紫の上は、明石の姫君を実の娘のように愛情深く育てました。彼女は明石の姫君を美しく成長させるために尽力し、彼女の教育にも力を入れました。
- 社会的地位の向上:明石の姫君は、身分の低い母から生まれたため、紫の上のもとで高い后教育を受けることで、将来の地位を確保することができました。紫の上は光源氏の意向を尊重し、明石の姫君を愛情深く育てることで、彼女の将来を支えました。
紫の上について
紫の上は、光源氏の継母である藤壺の姪にあたります。彼女は幼い頃に光源氏に見初められ、彼の屋敷で理想の女性になるように育てられました。紫の上は、容姿だけでなく知性や性格、才芸などでも理想的な女性として描かれています。
光源氏との関係
光源氏が療養中に、10歳の紫の上と出会い、一目惚れします。その後、彼女を引き取り、兄妹のような関係で育てますが、14歳の時に男女の仲になります。紫の上は光源氏を兄のように慕い、光源氏も彼女を最愛の女性として愛しました。
紫の上の苦悩
紫の上は光源氏から最も愛された女性ですが、彼女の人生は苦悩に満ちていました。光源氏が他の女性と関係を持つたびに心を痛め、特に女三の宮を正妻として迎えた時には大きな衝撃を受けました。彼女は自分の身の不安定さに苦しみ、最終的には心労が重なって重病となります。このように、紫の上と光源氏の関係は、愛情と苦悩が交錯する複雑なものでした。
紫式部が『源氏物語』で紫の上に子供を産まない設定にした理由には、いくつかの説があります。
- 物語の展開上の理由:子供が生まれると、物語の焦点が男女間の愛情から子供に移ってしまい、純粋な恋愛を描くのが難しくなるから。
- 仏教的な思想:紫の上に子供を産ませないことで、光源氏に因果応報の仏教的な教えを示すため。
- 物語の厚みを増す:紫の上に子供を産ませると、物語がハッピーエンドになってしまい、物語の深みが失われるから。
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模範解答
- ① 明石の君 ② 光源氏
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- ③ 謙譲語 作者から光源氏 ④ 尊敬語 作者から光源氏
- ⑦ 断定の助動詞「なり」連用形(「に」の後に「あり」があるときはこれ)