漢詩は大きく「古体詩」と「近体詩」に分けられます

【漢詩】中国人なら300首暗記は当たり前⁉︎中国で一番有名な漢詩は
古体詩は漢詩の形式の一つで、唐の時代以前に作られた自由な形式の詩のことです
古体詩の特徴
- 形式の自由さ:
- 句数や各句の文字数に厳格な制限がない
- 韻の踏み方も比較的自由
- 表現の多様性:
- 作者の感情や思想を自由に表現するのに適している
- 物語性や叙事性を持つ作品も多く見られる
- 時代の古さ:
- 唐の時代に完成した「近体詩」よりも古い形式
- 詩経や楽府といった古い時代の詩も古体詩に含まれる
近体詩は、唐の時代に完成した厳格な形式を持つ漢詩です(句数、文字数、韻、平仄などのルールが細かく定められています)
近体詩の特徴
- 形式の厳格さ:
- 句数や各句の文字数が決まっている
- 韻は特定の箇所で踏む(押韻)※注1
- 平仄(声調の規則)
- 対句
- 形式の種類:
- 五言または七言の詩型がある
- 句数によって、絶句、律詩、排律に分けられる ※注2
- 音楽性:
- 平仄や韻によって、音楽的な響きが生まれる
- 声に出して読むことで、その美しさをより感じることができる

杜甫 春望|漢詩朗読
中華史上最高の詩人「杜甫」が生み出した!あの松尾芭蕉も引用した
伝説の漢詩「春望」

孟浩然「春暁」 現代北京音
杜甫・李白と並ぶ詩人「孟浩然」の伝説の詩「春暁」!
押韻とは、詩の特定の箇所に同じ音の響きを持つ言葉を配置することです ※漢詩では、主に句末に同じ韻(いん)を持つ漢字を置くことで、詩にリズムと音楽性を与えます(「韻を踏む」と同じ意味)
POINT
漢詩はリズムが大切なので暗記するぐらい繰り返し音読すると理解も早くなります
押韻のルール
- 近体詩
- 偶数句末(二句・四句・六句・八句)
- 七言詩は第一句の句末でも押韻するのが一般的
- 韻は、原則として同じ韻目の漢字を用いる
- 古体詩
- 近体詩ほど厳格なルールはない
- 偶数句末で押韻することが多い(句数や位置は比較的自由)
押韻の効果
- リズム感と音楽性:同じ音が繰り返されることで、詩にリズム感が生まれ、音楽的な響きを与える
- 記憶の助け:韻を踏むことで、詩が覚えやすくなる
- 詩全体のまとまり:押韻によって、詩全体に統一感が生まれる
- 感情の強調:特定の音を繰り返すことで、作者の感情を強調する効果がある
押韻の注意点
- 漢詩の押韻は中国語の発音に基づく(日本語の音読みでは合わない場合がある)
- 同じ韻の漢字でも声調(四声)が異なる場合は押韻として認められないことがある
近体詩には次のようなものがあります
- 絶句(ぜっく)
- 律詩(りっし)
- 排律(はいりつ)
- 十句以上の偶数句からなる長い詩
- 主に五言排律がある
起承転結
「起承転結」は漢詩の構成要素であり、特に絶句(四句からなる詩)の構成を説明する際に用いられます
- 起(き)
- 承(しょう)
- 起句を受けて、内容を発展させる
- 起句で提示された情景や主題を詳しく描写
- 転(てん)
- 詩の途中で視点や場面を転換させる
- 予想外の展開や新しい視点を提示することで詩に深みを与える
- 結(けつ)
- 詩の締めくくり
- 全体のまとめや作者の感情・思想を表現
律詩の聯
律詩(八句からなる詩)は二句ごとに「聯」という単位で構成されます
- 起聯(きれん)
- 第一句と第二句
- 詩の導入部であり、主題や情景を提示
- 頷聯(がんれん)
- 第三句と第四句
- 起聯で提示された内容を具体的に展開
- 対句という修辞法が用いられる
- 頸聯(けいれん)
- 第五句と第六句
- 詩の核心部分であり、主題をさらに深める
- 頷聯と同様に対句が用いられる
- 尾聯(びれん)
- 第七句と第八句
- 詩の結論部分であり、全体のまとめや作者の感情・思想を表現
近体詩の代表的な詩人
近体詩の代表的な詩人を初唐、盛唐、中唐、晩唐の順に紹介します
初唐(しょとう)
- 王勃(おうぼつ)
- 楊炯(ようけい)
- 盧照鄰(ろしょうりん)
- 駱賓王(らくひんのう)
これらの四人は「初唐の四傑」と称され、近体詩の形式を確立する上で重要な役割を果たしました
盛唐(せいとう)
- 李白(りはく):「詩仙」と称される、奔放で幻想的な詩風が特徴
- 杜甫(とほ):「詩聖」と称される、社会の現実を深く見つめた詩風が特徴
- 王維(おうい):「詩仏」と称される、自然や仏教思想を詠んだ詩風が特徴
- 孟浩然(もうこうねん):田園や自然を愛し、静かで穏やかな詩風が特徴
盛唐は中国詩の黄金時代であり、多くの優れた詩人が活躍しました
中唐(ちゅうとう)
- 韓愈(かんゆ):力強く独特な詩風で、古文復興運動の中心的役割を果たした
- 白居易(はくきょい):白楽天 平易な言葉で社会風刺や人間感情を詠んだ詩風が特徴
- 柳宗元(りゅうそうげん):自然描写に優れ、哲学的な思索を詠んだ詩風が特徴
中唐は安史の乱後の社会を背景に、多様な詩風が生まれました
晩唐(ばんとう)
- 李商隠(りしょういん):技巧的で難解な詩風で、独特の美意識を表現した
- 杜牧(とぼく):歴史や恋愛を題材にした、叙情的な詩風が特徴
- 温庭筠(おんていいん):華麗で耽美的な詩風で、特に詞の分野で活躍した
晩唐は唐王朝の衰退期であり、詩風も変化が見られました
李杜韓白(りとかんぱく)
「李杜韓白(りとかんぱく)」とは、中国の唐代を代表する四人の詩人、李白(りはく)、杜甫(とほ)、韓愈(かんゆ)、白居易(はくきょい)を並び称した言葉です
- 李白(りはく):「詩仙」
- 杜甫(とほ):「詩聖」 ※「り(李)・と(杜)・せん(仙)・せい(聖)」と覚えると覚えやすい
- 韓愈(かんゆ):力強く独特な詩風で、古文復興運動の中心的役割を果たした
- 白居易(はくきょい):平易な言葉で社会風刺や人間感情を詠んだ詩風が特徴
これらの四人はそれぞれの時代(盛唐・中唐)において、中国詩の発展に大きく貢献しました
※「李杜韓柳(りとかんりゅう)」という言葉もあり、この場合は、李白、杜甫、韓愈、柳宗元(りゅうそうげん)の四人を指します
あやか: ねえ、さち!「香炉峰の雪」のエピソードって知ってる?
さち: うん、清少納言の『枕草子』に出てくる「雪のいと高う降りたるを」っていう話だよね? でも、詳しくは覚えてないな
【古文解説】香炉峰の雪/雪のいと高う降りたるを〈枕草子〉音読・内容解説|万葉授業
あやか: そうだよ!このエピソードは、白居易の詩「香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」を元にしてるんだ
さち: 白居易って中唐の詩人だよね?その詩ってどんな内容なの?
あやか: 白居易が江州、今の江西省九江市に左遷されたときに詠んだ詩なんだ…香炉峰のふもとに新しい住居を構えたときの心境を描いてるんだよ!白居易は香炉峰に降る雪を簾を撥げて見る様子を描写してるの
さち: なるほど!それがどう『枕草子』に関係してるの?
あやか: 『枕草子』のエピソードでは雪が降り積もったある日、中宮定子が「香炉峰の雪はどんなかしら?」って尋ねたの…そしたら、清少納言がすぐに御簾を高く上げて見せたんだって!この行動は白居易の詩の表現をまねたものだから中宮や周囲の人々を笑わせたんだよ
さち: へえ、清少納言って機知に富んでるね!それで彼女の教養が高く評価されたんだ!
あやか: そうそう!このエピソードは彼女の漢文に対する教養の高さを示すものとして、現代でもよく知られてるんだよ
『源氏物語』と「長恨歌」にも関連があります
「長恨歌」とは
- 中唐の詩人、白居易によって書かれた漢詩
- 唐の第9代皇帝・玄宗と楊貴妃の恋愛と悲劇を描いた叙事詩
- 七言古詩という形式で書かれた120句からなる長編の漢詩(806年に制作された 日本の「源氏物語」をはじめ、多くの文学作品に影響を与えた)
『源氏物語』への影響
桐壺帝と桐壺更衣
- 源氏物語の冒頭で描かれる桐壺帝と桐壺更衣の関係は身分違いの愛、そしてその死による帝の嘆きという点で「長恨歌」の玄宗皇帝と楊貴妃の関係と重なる
- 桐壺の更衣は身分はさして高くはなかったが、帝の寵愛を一身に受け、多くの人の嫉妬を招いた(その様子は、楊貴妃が玄宗皇帝に寵愛された様子と似ている)
- 桐壺の更衣が亡くなった後、桐壺帝は深く嘆き悲しむ(その姿は楊貴妃を失った玄宗皇帝の姿と重なる)
光源氏と藤壺
- 光源氏と藤壺の関係も「長恨歌」の玄宗皇帝と楊貴妃の関係と似ていると指摘される
- 光源氏が父である帝の妃(藤壺)を愛し、密通したことは禁じられた愛の関係
- 玄宗皇帝と息子の妃(楊貴妃)との関係と似ている
『源氏物語』と「長恨歌」の関係とは?~比翼連理を求める恋~