枕草子 【第百六段】二月つごもりごろに

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本  文

品詞分解

探究的な考察

『枕草子』の類聚的章段(テーマ別のエッセイ形式)は、『文選』のような中国の類書と通じる部分があると言えます。『文選』は、中国の南朝梁の昭明太子によって編纂された詩文集で、様々な文学作品がテーマ別に分類されているのが特徴です。平安時代の貴族社会では漢詩や漢籍の学習が重要視されていたため、日本の文学者たちも『文選』を参考にすることが多かったと考えられます。ただし、『枕草子』は個人的な感性や美意識を強く反映した随筆であり、中国の歴史書や公式文書とは異なる、日本独自の文学スタイルを確立しています。

 陰暦二月下旬のころに、風がひどく吹いて、空は真っ黒なうえに、(その空から)雪がちらりちらりと舞い降りる天候の日に、清涼殿の北廊の黒戸のところへ主殿寮の役人が来て、「こうしてお伺いしております(ごめんください)。」と挨拶の言葉を述べるので、(御簾のところへ)寄ったところ、「これは、〔藤原〕公任の宰相様の(お手紙です)。」と言って差し出すのを見ると、懐紙に、

少し春ある……ほんの少し春がある心地がするよ。

と書いてあるのは、なるほど今日の天気の具合とぴったり合致しているが、この上の句はどうやってつけたらよかろうかと、考えあぐねてしまった。「誰々が(殿上にはいらっしゃるのか)。」と尋ねると、「あの殿様、この殿様。」と名前をあげる。どのお方もみなこちらが恥ずかしく思うほどたいそう立派な方々だが、中でも宰相様へのご返事を、どうしてなんでもないふうに言ってやれようかと、胸の内で思案に苦しむので、中宮様にお目にかけようとするけれども、(ちょうど)帝がおいでになって(お二人は)お休みになっている。主殿寮の役人は、「早く、早く。」とせき立てる。そうだわねえ、(上の句が下手なうえに返事が)遅いとなったら、全く取り柄がないから、ままよ、どうにでもなれと(覚悟を決めて)、

空寒み……空が寒いので、花に見まがうばかりに降る雪で、

と、ふるえふるえしながら返事を書いて(使いの者に)渡して、今ごろはどのように評価しているだろうかと思うと、つらい。

 この反応を知りたいと思うが、もしけなされているなら(そんな評判は)聞きたくないと思っていると、「〔源〕俊賢の宰相様などが、『やはり(清少納言はたいしたやつだから、)帝に申し上げて掌侍に任官させよう。』とね、評定なさった。」と(結論)だけを、左兵衛督で当時近衛中将でいらした人〔藤原実成〕が、お話ししてくださった。