山崎ナオコーラ(やまざき ナオコーラ、1978年9月15日生まれ)
日本の小説家・エッセイストです。福岡県北九州市生まれ、埼玉県育ち、國學院大學文学部日本文学科卒業。性別は非公表。
主な経歴・特徴
- 2004年、会社員として働きながら執筆した小説『人のセックスを笑うな』で第41回文藝賞を受賞し、作家デビュー。
- 芥川賞に5回ノミネートされるなど、現代日本文学界で高い評価を得ている。
- 2023年にはエッセイ『ミライの源氏物語』で第33回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
- 目標は「誰にでもわかる言葉で誰にも書けない文章を書きたい」と語っており、日常や社会の中の小さな違和感や個人の感情を丁寧に描く作風で知られている。
- 性別に縛られることへの違和感や、多様な生き方についても積極的に発信しており、エッセイやインタビューでその思いを率直に語っている。
代表作(一部)
- 『人のセックスを笑うな』
- 『浮世でランチ』
- 『カツラ美容室別室』
- 『論理と感性は相反しない』
- 『美しい距離』
- エッセイ『ミライの源氏物語』
- その他、絵本や短編、共著など幅広いジャンルで執筆活動を行う。

第33回(2023年度) Bunkamuraドゥマゴ 文学賞 贈呈式
山崎ナオコーラと『源氏物語』
山崎ナオコーラは大学時代に「浮舟論」を執筆し、『源氏物語』の最終章「浮舟」に登場する女性・浮舟の存在やその生き方、苦悩に深い関心を寄せました。「浮舟」は『源氏物語』の最後に登場するヒロインで、恋愛や家族・社会のしがらみに苦しみながらも、最終的に自分の意志で出家し、自分らしい生き方を選びます。山崎ナオコーラはこの浮舟に共感し、卒業論文でも取り上げました。彼女の作品にも、社会や他者に振り回されながらも、自分の生き方を模索する人物が多く描かれています。山崎はエッセイなどで、※古典の価値観を現代の視点で読み直す作業を続け、性別や役割に縛られない自由な生き方を肯定的に描いています。
山崎ナオコーラはエッセイ『ミライの源氏物語』で、「ルッキズム」「ロリコン」「不倫」など、現代社会の倫理観や価値観から『源氏物語』を読み直しています。古典の言葉や当時の社会規範が現代人には理解しづらいという課題に向き合い、「ナオコーラ訳」としてより注)現代的な表現で物語を紹介し、登場人物たちの行動や心情を現代の視点で考察しています。
※ナオコーラ訳って?:末摘花のエピソードでは「容姿が良くないのに光源氏に面倒を見てもらえて幸せだった」という従来の解釈に対し、「それは女性差別や容姿差別では?」と疑問を投げかけている。
山崎ナオコーラが『源氏物語』で取り上げている具体的な場面や内容は、現代の倫理観や価値観で問題視されるようなエピソードが中心。
- 『源氏物語』には、ルッキズム(外見差別)、性暴力、不倫、誘拐といった、現代なら差別や犯罪とされる内容が多く描かれている。たとえば、同意のない性行為や子どもを性愛の対象にする場面、現代では人権侵害とされる行為が「恋」として描かれている部分に注目し、「これって性暴力ですよね」と現代語で問い直している。
- 末摘花のエピソードでは、容姿が良くないとされる末摘花が最終的に光源氏に迎えられる展開について、従来の「幸せな結末」という解釈に疑問を投げかけ、「容姿や経済力で幸せが決まるのはおかしい」と現代的な視点で再評価している。
- 物語終盤のヒロイン・浮舟については、研究的には「二股をかけている罪深い女」とされがちだったものを、「無理やり性交渉を強いられた被害者」として捉え直している。浮舟が最終的に出家して「恋愛や人間関係を断ち切る」選択を「主体性の発揮」として評価し、その後の人生にも想像を広げている。
- 紫の上や浮舟など、主体性がないとされるヒロインたちが物語を動かしていく点にも着目し、「受け身の女性でもヒロインになれる」という視点で読み直している。
- 葵の上の場面では、「昼過ぎになって、葵の上は、そこまできちんとしたふうではない支度をして葵祭に出かけた」といった平易な現代語で描写している。
要 約
『源氏物語』と言葉の時空を超えた読書の楽しみ
言葉は時代や場所とともに生まれるが、一度生まれると消えることなく、時代や場所を越えて残り続ける。『源氏物語』は千年前に書かれ、現代の私たちには馴染みのない言葉遣いで綴られているため、簡単には読めないが、言葉である限り必ず読み解くことができる。読書は作品の全てを理解することではなく、気に入った部分やシーンを楽しむだけでも十分である。
『源氏物語』と言葉が紡ぐ時代と読者の距離
文学作品の言葉は作者がゼロから生み出したものではなく、社会に漂う言葉を使っており、時代や場所、多くの人々の影響を受けて生まれるものだ。最も『源氏物語』を楽しめたのは平安時代の人々であり、現代の私たちは当時の生活や言葉の感覚を体感することはできない。研究者でさえも、考えながらゆっくり読むしかなく、自分たちは時代や場所から逃れて読書することはできない。
『源氏物語』を現代人の感覚で楽しむ新しい読書
現代に生きる自分として、平安時代の読者に近づく努力よりも、現代人としての読書の楽しみ方を極めるべきだと考えるようになった。現代語訳や英訳を楽しんだり、千年を越えた今だからこそできる読書の仕方を大切にしようと考えている。
探究的な考察
兵藤先生:「じゃあ、みんな今日から古文の勉強よ。ほら、ナオト!源氏物語のページ開いて!」
ナオト:「また古文かよ。なんでこんなもん読まなきゃいけねえんだよ。全然意味わかんねえし。」
兵藤先生:「そうだよね、特に源氏物語は難しいよね。源氏物語の冒頭は、『いづれの御時にか、女御・更衣あまたさぶらひ給ひける中に…』って書いてあるけど、これは『どの天皇の時代だったか、たくさんの奥さんがいた中で…』って意味なんだ。」
ナオト:「は?奥さんがいっぱい?サイコーじゃん。」
兵藤先生:「そうなんだけど、その中に特に天皇に愛された女性がいて、その人が主人公の母親なの。彼女は『桐壺の更衣』って呼ばれてて、他の奥さんたちから妬まれてつらい思いをしてたの。」
ナオト:「なんだよ、それ!昔のドラマみたいだな。ドロドロした話か。」
兵藤先生:「そうそう。人間関係のもつれは昔も今も変わらないのよ。だからこそ、読んでて面白いんだよ。」
ナオト:「面白い?先生、やけに押しつけてくるな。先生も何かあったのか?ま、おれには関係ねえし。だいたい、昔のやつらの感覚なんて、オレらに押しつけられても困るんだよ。」
兵藤先生:「ナオト、いい加減にして!確かに現代の感覚で読むと、源氏物語には納得できないことがたくさん出てくるよ。例えば光源氏は不倫もするし、積極的に女性にアプローチする。でも、それは物語の中のことで、当時の価値観や社会の仕組みの中で描かれているの。」
ナオト:「いやいや、そんなの言い訳だろ!今だったら完全にアウトだし、なんでそんなやつが主人公なんだよ。しかも、先生たちってすぐ『昔はこうだった』って言うけど、オレらには関係ねえって。」
兵藤先生:「そうね、まあ、ナオトの言うこともよくわかる。でも、今の感覚だけで昔の物語を判断するのは、ちょっと危険なんだ。紫式部自身も、当時の社会に対して冷静な目を持っていたし、ただ美化していたわけじゃないのよ。物語を通して、いろんな人の悲しみや苦しみも描いているの。」
ナオト:「いやいや、そんなの関係ねえよ。だいたい、そんなの読んで何が面白いんだよ。昔の常識を今のオレらに押しつけんなよ。」
兵藤先生:「はあ…、困ったわね。分かったわ。無理に昔の価値観を受け入れる必要はないよ。じゃあ、ナオトには山崎ナオコーラさんの『ミライの源氏物語』をオススメするね。これは現代の視点で源氏物語を読み解いた本で、今の価値観で違和感を感じる部分もちゃんと取り上げているんだ。現代語訳もわかりやすいし、ナオトみたいにモヤモヤする人にもきっと響くと思うよ。」

『ミライの源氏物語』について【ゲスト:山崎ナオコーラ】2023年5月16日(火)大竹まこと 小島慶子 山崎ナオコーラ【大竹メインディッシュ】
コメント