本 文

八橋かきつばた園(知立市) [Network2010]
菖蒲、あやめ、杜若。
ちょっと見ただけでは、さっぱり違いが分からない。
いずれあやめか、かきつばたという、美人の優劣の区別がつかない名言もある。
そこで今回は、菖蒲、あやめ、かきつばたを峻別する、大きく分けて二つの特徴を述べて見ます。→ ラクハナ

昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、「京にはあらじ。東の方に住むべき国求めに。」とて行きけり。もとより友とする人一人二人して行きけり。道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。三河の国、八橋といふ所にいたりぬ。そこを八橋といひけるは、水行く川の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。その沢のほとりの木のかげに下りゐて、乾飯食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心をよめ。」と言ひければ、よめる。
昔、男がいた。その男は、自分自身を必要のない者と思い込んで、「京には住むまい。東国の方に住むのにふさわしい国を探しに(行こう)。」と思って出かけて行った。古くから友人としている人、一人二人と一緒に行った。道を知っている人もなくて、迷いながら行った。三河の国の八橋という所に行きついた。そこを八橋といったのは、水の流れゆく川が蜘蛛の足のように四方八方に分かれているので、橋を八つ渡してあることによって、八橋といったのだ。その沢のほとりの木陰に(馬から)降りて座って、乾飯を食べた。その沢にかきつばたがたいそう趣深く咲いている。それを見て、ある人が言うことには、「『かきつばた』という五文字を各句の頭に置いて、旅の思いを詠め。」と言ったので、(男が)詠んだ(歌)。
唐衣/きつつなれに し/つましあれば/はるばるきぬる/旅をしぞ思ふ
唐衣を着なれるように、なれ親しんだ妻が都にいるので、はるかここまでやって来た旅のつらさを身にしみて感じることだ。
折句(おりく)各句の最初の文字をつなげると「かきつばた」になる
| 掛 詞 | 意 味 ① | 意 味 ② | 解 説 |
|---|---|---|---|
| なれ | 萎る | 馴れ親しむ | 「着なれる」は、なじんで柔らかくなるを意味する「萎る」と「馴れ親しむ」の「なれる」の掛言葉 |
| つま | 妻 | 褄 | 都に残してきた「妻」と衣の裾を意味する「褄」の掛言葉 |
| はるばる | 張る張る | 遥々 | 着物を張るを意味する「張る張る」と「遥々」の掛言葉 |
| きぬる | 来 | 着 | 「来」と「着」の掛言葉 |
| 縁 語 | 「なれ」「つま」「はる」「き」は「唐衣」の縁語。 |
|---|
「唐衣」は「着」にかかる枕詞。(「着る」の他に「裁つ」「反す(かへす)」「袖」「裾」「紐」などにかかる)
「唐衣きつつなれにし」が「つま」を導く序詞
とよめり ければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびに けり。
「蔦の細道」は古代から中世にかけて使われていた宇津ノ谷峠越えの道で、平安時代前期に在原業平を主人公として書かれた歌物語『伊勢物語』に登場したことで広く世間に知られることになりました。物語の中で、主人公の業平が宇津ノ谷峠を越える蔦の細道で詠んだ歌「駿河なる宇津の山辺の現にも夢にも人に逢はぬなりけり」は、蔦や楓が生い茂り… →ふじえだ東海道まちあるき
行き行きて、駿河の国にいたりぬ。宇津の山にいたりて、わが入らむとする道はいと暗う細きに、蔦・楓は茂り、もの心細く、すずろなる目を見ることと思ふに、修行者会ひたり。「かかる道はいかでかいまする。」と言ふを見れば、見し人なり けり。京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。
と詠んだので、(その場に居合わせた)人々は皆、乾飯の上に涙を落として、(乾飯は)ふやけてしまった。
さらに進んで行って、駿河の国に着いた。宇津の山に着いて、自分が入ろうとする道はたいそう暗くて細いうえに、蔦や楓が茂り、なんとなく心細く、思いがけない(つらい)目に遭うことだ、と思っていると、修行僧が(一行に)出会った。「このような道にどうしていらっしゃるのか。」と言う人を見ると、見知った人であるなあ。京に、あの方の御もとに(届けよう)と思って、手紙を書いて託す。

駿河なる/宇津の山べの/うつつにも/夢にも人に/あはぬ なり けり
駿河の国にある宇津の山辺の「うつ」ではないが、うつつ(現実)でも夢でもあなたに逢わないことですよ。
「駿河なる/宇津の山べの」(第一句と第二句)は、「宇津」と「うつつ」を導く序詞

富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
時知らぬ/山は富士の嶺/いつとてか/鹿の子まだらに/雪の降るらむ
富士の山を見ると、五月の末に、雪がたいそう白く降り積もっている。
時節をわきまえない山は富士の山だ。(五月末だというのに)今をいつだと思って、鹿の子まだらに雪が降り積もっているのであろうか。
| 修辞技法 | 和歌の該当部分 | 説 明 |
|---|---|---|
| 句切れ | 「山は富士の嶺/いつとてか」 | 二句切れ |
| 擬人法 | 「時知らぬ山」 | 富士山が季節(時)を知らないかのように表現 |
| 係り結び | 「か」→「らむ」 | 係助詞「か」と結びの助動詞「らむ」 |
その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ね上げたら むほどして、なりは塩尻のやうになむありける。

なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる川あり。それをすみだ川といふ。その川のほとりに群れゐて思ひやれば、限りなく遠くも来に けるかなとわび合へ るに、渡し守、「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥の、嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
その山は、この京でたとえるならば、比叡山を二十個ほど重ね上げているような高さで、かたちは塩尻のようであった。
なおもどんどん進んで行って、武蔵の国と下総の国との間にたいそう大きな川がある。それを隅田川という。その川のほとりに集まり座って(遠く離れた都を)思いやると、限りなく遠くへ来てしまったものだなあ、と(皆で)嘆き合っていると、渡し守が、「早く舟に乗れ。日も暮れてしまう。」と言うので、(舟に)乗って(川を)渡ろうとするが、人々は皆なんとなくつらくて、(というのも)京に思う人がいないわけではない(からだ)。ちょうどそのとき、白い鳥で、口ばしと脚とが赤い、鴫ほどの大きさである鳥が、水の上で遊びながら魚を食べている。京では見かけない鳥なので、居合わせた人はだれも見知らない。渡し守に尋ねたところ、「これが都鳥だ。」と言うのを聞いて、
名にし負はば/いざこと問はむ/都鳥/わが思ふ人は/ありやなしやと
(「都」を)名として持つのなら、さあ尋ねよう、都鳥よ。私の愛する人は無事でいるのかいないのかと。
- 三句切れ
- 倒置法 (「言問はむ」の内容→三句目以降に書かれている)
と詠んだので、舟の中の人はみんな泣いてしまった。
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問 題
探究的な考察


みおとあかりの会話を聞いて、ナツコとアケミは以下のように考えました。あなたならどう考えますか?
ナツコ:ねえアケミ、伊勢物語の東下りの話、どう思った?
アケミ:うん、すごく面白かった!でも、なんであの男の人は都を捨てて東に向かったんだろうって、ずっと気になってて…。
ナツコ:私も!最初に「身をえうなしと思ひて」って言って出ていくでしょ。でも、あれって本心かな?
アケミ:うーん…本当に「自分なんて必要ない」と思ってたのか、それとも誰かに疎まれて都に居づらくなったのか…。
ナツコ:私、後者だと思う。たぶん都で何かあったんじゃないかな。自分の意思で旅に出たように見せかけてるけど、実は追われるようにして出てきたとか。
アケミ:たしかに。で、旅の途中でだんだん素直な気持ちが出てきたんだろうね。たとえば八橋での「唐衣きつつなれにし…」の歌なんて、めっちゃ女性のこと引きずってる感じがしたし。
ナツコ:うん。でも、その後の宇津の山の場面では「うつつにも 夢にも見えぬ」って言って、もう絶望してる。夢にも出てこないって、つまり相手に思われてないってことでしょ。
アケミ:それ、ほんとに切ないよね…。最初は強がって出ていったけど、旅をするうちに、忘れられていく実感が出てきたのかな。
ナツコ:あ、そういえば、芥川の段も読んだ?
アケミ:読んだ読んだ!あれって、女の人を連れて逃げてる話でしょ?
ナツコ:うん!で、雷が鳴って、女の人がさらわれちゃって…最後は男が絶望するやつ。あの話、めっちゃ衝撃だった。
アケミ:あれ読んで思ったんだけど、もしかしてあの女の人って、もともと結ばれちゃ、いけなかった人だったんじゃないかな。
ナツコ:そうそう!つまり、都で思いを遂げられなかったから、強引にでも一緒にいようとして連れ出した…でも結局、運命に引き裂かれた。
アケミ:そう考えると、東下りってただの旅じゃなくて、失恋とか挫折を抱えた逃避行だったのかもね。
ナツコ:うん、私もそう思う。都にいられなくなった男が、過去を断ち切ろうと東へ向かう。でもその道中でも、結局、女性に「忘れられていく」っていう現実を思い知らされる。
アケミ:なるほど…。なんか、ただのロマンチックな恋物語っていうより、一人の男の心の葛藤とか孤独がメインに感じるね。
ナツコ:隅田川の場面もそうじゃない?都鳥に「わが思ふ人」のことを尋ねるけど、あれもたぶん、もう片思いになってるって気づいてるから、聞かずにはいられないっていう…。
アケミ:うん。そして周りの人たちがその歌を聞いて泣くっていうのも、それぞれに似たような思いを抱えてたからなのかなって思った。
ナツコ:古文って難しいイメージあるけど、読んでいくと、人の気持ちって、結局、昔も今も変わらないなって感じるよね。
アケミ:ほんとそれ。愛されたくて、でも愛されないかもしれない不安とか、どうしても捨てきれない気持ちとか…。
ナツコ:うん。東下りって、旅の話だけど、実は心の旅の話だったんだなって思った。エヘッ😊
物語の内容: 昔、ある男が長年求愛していた女性をついに盗み出し、暗い夜に芥川のほとりを連れて行きました。女性が草の露を見て「あれは何?」と尋ねましたが、雷雨が激しくなったため、男は女性を古い蔵に避難させ、自分は弓矢を持って戸口で見張っていました。ところが夜中に鬼が現れ、女性を一口で食べてしまいました。女性は悲鳴を上げましたが、雷の音で男には聞こえませんでした。夜明けに蔵を見ると女性はおらず、男は激しく嘆き悲しみました。そして次の歌を詠みました: 「白玉か何ぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを」 (あの人が「白玉ですか」と尋ねた時、「露です」と答えて露のように消えてしまえばよかった)
歴史的背景: この物語は実際には、二条の后(藤原高子)がまだ若い頃、在原業平が彼女を盗み出そうとしたが、兄の堀河の大臣と太郎國経の大納言に取り返されたという史実を、鬼の仕業として物語化したものです。※藤原高子は天皇の奥さんという最高位の女性であり、もしこの駆け落ち未遂が世間に知られれば、在原業平は重大な政治的制裁を受ける可能性がありました。そのため、この危険な恋愛事件を幻想的な鬼の物語として脚色したのです。
主要テーマ: 愛する人を失った深い後悔と絶望を、幻想的な鬼の物語として表現した悲恋譚です。
評価のルーブリック
【観点1】知識・技能(古典の言語文化に関する理解)
| 観 点 | A(十分満足) | B(概ね満足) | C(要努力) |
|---|---|---|---|
| 語句・文法 | 重要語句・文法を正確に理解 歴史的仮名遣いも正しく直せる | 基本的な語句・文法を概ね把握 仮名遣いも大体直せる | 理解が不十分 仮名遣いの変換も困難 |
| 文学史・文化 | 伊勢物語の成立や特色、平安文化を具体的に説明できる | 基本的な特色や文化を理解している | 理解が浅く、説明が曖昧 |
| 和歌理解 | 技法や心情を深く理解し、修辞の効果も説明できる | 基本的な技法や心情を読み取れる | 技法・心情理解が不十分 |
【観点2】思考・判断・表現(古典を読む能力)
| 観 点 | A(十分満足) | B(概ね満足) | C(要努力) |
|---|---|---|---|
| 読解力 | 文脈・内容・心情・情景を深く正確に理解できる | 内容や心情、情景を概ね理解できる | 理解が浅く、情景や心情把握が不十分 |
| 解釈・分析 | 心情や場面の意味・効果、現代との比較まで分析できる | 心情や場面の意味を基本的に理解できる | 理解や比較が不十分 |
| 表現力 | 根拠を示し論理的に解釈を表現、古典用語も適切に使用 | 解釈や意見をある程度説明、基本的用語を使用 | 説明や用語の使用、意見表現が不十分 |
【観点3】主体的に学習に取り組む態度(古典に親しむ態度)
| 観 点 | A(十分満足) | B(概ね満足) | C(要努力) |
|---|---|---|---|
| 学習姿勢 | 積極的に参加・探究心が高い | 参加・質問ができる | 取り組みが消極的 |
| 古典興味 | 強い関心・他作品にも興味 | 関心がある | 関心が薄い |
| 文化継承 | 古典・文化の価値を深く理解 | 価値をある程度理解 | 理解・関心が不十分 |
重点評価項目
- 八橋の場面:かきつばたの歌の技法と心情理解
- 宇津の山の場面:「うつつ」「うつ」の掛詞理解
- 富士山の場面:季節感と心情の対比
- 隅田川の場面:都鳥の歌に込められた望郷の念
指導のポイント
- 各場面での男の心情の変化を丁寧に追う
- 和歌の修辞技法と心情表現の関連を理解させる
- 平安時代の旅の困難さと現代の違いを考えさせる
- 古典の言葉の美しさと表現力を味わわせる
評価方法
- 定期テスト:語句・文法・読解問題
- 小テスト:暗唱・語句確認
- レポート:場面分析・感想文
- 発表:和歌の解釈・現代語訳
- 授業態度:音読・質疑応答への積極的な参加
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