学習のステップ
朗読や解説動画 を見て、全体のストーリーや雰囲気を感じ取ってみましょう。
原文と現代語訳 を交互に読みながら、内容のつながりを自然に理解していきましょう。
助動詞・文法・語句のポイント を確認しながら、基礎的な知識を身につけていきましょう。
確認問題に挑戦！ 解き終わったら模範解答で、自分の理解度をチェックしてみましょう。
記事の最後にある 「探究的な考察」 も忘れずにチェックして、思考を広げてみましょう！
「奥山に、猫またといふものありて、人を食らふなる。」と人の言ひけるに、「山ならねども、これらにも、猫の経上がりて、猫またになりて、人とることはあなるものを。」と言ふ者ありけるを、何阿弥陀仏とかや、連歌しける法師の、行願寺の辺にありけるが聞きて、ひとり歩かん身は心すべきことにこそと思ひけるころしも、ある所にて夜更くるまで連歌して、ただひとり帰りけるに、小川の端にて、音に聞きし猫また、あやまたず足もとへふと寄り来て、やがてかきつくままに、頸のほどを食はんとす。
「山奥に、猫またというものがいて、人を食うそうだ。」と（ある）人が言ったところ、「山（の中）でなくても、（人の住む）この辺りにも、猫が年を取って変化して、猫またになって、人の命を取ることはあるそうだよ。」と言う（別の）者がいたのを、何とか阿弥陀仏とかいう、連歌をたしなんでいた法師で、行願寺の辺りに住んでいた法師が（それを）聞いて、（自分のように）一人で歩き回るような者は気をつけなければいけないことだと思っていたちょうどその頃、ある所で夜が更けるまで連歌をして、たった一人で帰ってきた時に、小川のほとりで、うわさに聞いた猫またが、ねらいたがわず（自分の）足元へつっと寄ってきて、すぐに飛びつくやいなや、首の辺りに食いつこうとする。
肝心も失せて、防かんとするに力もなく、足も立たず、小川へ転び入りて、「助けよや、猫またよや、猫またよや。」と叫べば、家々より、松どもともして走り寄りて見れば、このわたりに見知れる僧なり。「こはいかに。」とて、川の中より抱き起こしたれば、連歌の賭物取りて、扇、小箱など、懐に持ちたり けるも、水に入りぬ。希有にして助かりたるさまにて、はふはふ家に入りに けり。飼ひける犬の、暗けれど主を知りて、飛びつきたり けるとぞ。
（法師は）正気を失って、防ごうとするけれど力もなく、足も立たないで、小川に転げ込んで、「助けてくれえ、猫まただよう、猫まただよう。」と叫ぶので、家々から、（人々が）たいまつをともして走り寄って見ると、この辺りで（顔を）見知っている僧である。「これはどうしたことか。」と言って、川の中から抱き起こしたところ、連歌の会の賞品を獲得して、（その賞品の）扇や、小箱など、懐に持っていたものも、水につかってしまった。やっとのことで助かったという格好で、這うようにして（自分の）家に入ったのだった。（法師の）飼っていた犬が、暗いけれども主人と分かって、飛びついたのだったという。
マスオ：「サトシ、『徒然草』の奥山に猫又の話、どう思った？」
サトシ：「怖い話だと思ったけど、結局勘違いだったんでしょ？自分の飼い犬を化け物だと思っちゃった。」
マスオ：「そう！実は中国の古典にも似た話があるんだ。鶏鳴狗盗って知ってる？」
サトシ：「知らない。」
マスオ：「孟嘗君って人が、鶏の鳴きまねとか盗みとか、くだらない特技の人ばかり養ってたんだ。みんな『役立たずばかり』って馬鹿にしてた。」
サトシ：「それで？」
マスオ：「でも孟嘗君がピンチの時、鶏の鳴きまねが上手な食客が関所で鶏の声を真似して、まだ夜なのに朝だと思わせて門を開けさせたんだよ。それで脱出できた。」
サトシ：「へえ。」
マスオ：「徒然草の話と同じで、先入観って怖いよね。『奥山は危険』『くだらない特技は無駄』って決めつけちゃう。」
サトシ：「確かに。見た目で判断しちゃダメってことか。」
マスオ：「そういうこと。古典って現代にも通じるテーマが多いんだよ。」
