■ 生成AIの痕跡を見逃すな──ある小論文の検証から
以下はある高校一年生が書いた小論文です。この小論文の条件は、一冊の本からテーマを探し、それについて800字~1200字以内、四段落でまとめよ、というものでした。

(前の部分は省略)一方で、宗教の本質は人々の心の中に今も生きていると思う。今回の小論文を書くにあたって、祖母に次のように聞いてみた。「なんで無宗教の人でもごはんの時に自然と「いただきます」、「ごちそうさま」って言うのだろう?」。祖母は「ごはんができるまで、たくさんの人と命のおかげがあるからよ。だから「いただきます」と言って感謝するのは当たり前じゃない?」と答えた。祖母の考えを聞き、「当たり前」と言えることに驚きを感じた。また、今年、初詣へ行った時にも同じ疑問を持ったことを思い出した。初詣も自然的な気持ちから行われていると考えた。そして、これらを「宗教行為」と認識している人は少ないのだろうと考えた。このように、宗教的な行為は人々の生活習慣として根付いており、宗教という枠を超え、「感謝」、「祈り」といった心のあり方として残っている。よって結局のところ、宗教がなくても、感謝の気持ちや他者を思う心があれば、それが本来の信仰に近い姿なのではないかと思う。ダイアグラム AI 生成コンテンツは誤りを含む可能性があります。このことから、宗教は人々を救う一方、争いを引き起こす危険がある。それでも、宗教の形が失われても、人の心にある感謝や安心を求める気持ちは変わらない。大切なのは宗教という形ではなく、人の心そのものだ。自分の中の信頼や感謝を大切にしながら他者とつながることこそ、現代人にとっての新しい「信仰」の形ではないのだろうか。
この小論文に、生成AIの使用が疑われる事例が発生しました。提出されたWordファイルをメモ帳に貼り付けたところ、文中に「ダイアグラム AI生成コンテンツは誤りを含む可能性があります」という隠し文字が表示されたのです。これは、Microsoftの生成AI「Copilot」などが自動的に挿入する文言であり、AI使用の痕跡と判断できます。
生徒たちには「生成AIの使用は禁止」と明示し、事前に小論文の書き方も指導していました。それでも、この生徒がAIを使用した背景には、課題の難しさや、生成AIの利便性への依存があると考えられます。
■ 教師が知っておくべき「AI使用の見抜き方」
生成AIの使用を見抜くために、以下の3つの方法が有効です。
- ① Wordの「非表示文字」機能を使う
Wordの「ホーム」タブ → 「¶(段落記号)」をクリック → 薄い文字でAI生成の痕跡が表示されることがあります。 - ② メモ帳に貼り付けて確認(今回の発見方法)
Wordから全文をコピーし、Windowsの「メモ帳」に貼り付けると、隠し文字が可視化されます。 - ③ ファイルのプロパティを確認
Wordファイルを右クリック → 「プロパティ」→「詳細」→ 作成者が「Copilot」や「Microsoft 365 Copilot」などであれば、AI使用の可能性が高いです。
スマートフォンでBing AIを使用すると、AI使用の痕跡が残っていることに本人が気づかず、そのまま提出してしまうケースがあります。(おそらく、今回はこれに該当します)
■ 小論文指導の再設計が必要な理由
現在も多くの学校で読書感想文や小論文が宿題として課されていますが、生成AIが一般化した今、従来の「ゼロから書かせる」スタイルは限界を迎えつつあります。
- 手書きや写真提出(原稿のスクショ)を禁止したことでAI使用を検出できた
今回はWordデータ提出を義務づけたことで、AI使用の痕跡を発見できました。逆に、手書きや写真提出を許可していたら、見抜けなかった可能性が高いのです。 - 生徒の語彙力・表現力の低下
授業時間の減少や読書量の減少により、語彙力や論理的思考力が著しく低下しています。全国の高校生の6割以上が偏差値50未満という調査結果もあり、従来型の作文指導が機能しにくくなっています。 - AI時代における「創作」の意味
小論文指導の本質は、外部情報を正確に理解し、多角的に考察する力を育てることです。ゼロからの創作を強いるだけでは、生徒にとって苦痛となり、AIへの依存を助長する結果にもなりかねません。
■ 音読の力──語彙力と表現力を育てる実践
私は、語彙力と表現力の基礎を築くために「音読」に重点を置いています。
- グループ練習 → タイム計測 → 競争形式で本気にさせる
生徒たちはゲーム感覚で取り組み、繰り返し音読することで語感を身につけていきます。 - Microsoft Teamsのラーニングアクセラレータを活用
音読課題を配信し、録音で提出させることで、予習・復習の習慣づけを図っています。確認作業に時間がかかるのが課題ですが、今後の改善に期待しています。 - 語彙力の定着と表現力の向上
音読を繰り返して行くと、定着した語彙を使う生徒が増え、着実に語彙力が高まりす。あとは適切な文脈でのアウトプットを重ねるだけで、AIに頼らず少しずつ自力で表現できるようになります。この方法は時間がかかりますが、最も効果的です。限られた授業時間の中で効果的な学習を実現するためには、Microsoft TeamsやGoogle ClassroomなどのLMS(学習管理システム)を活用し、各校の環境に応じた指導設計が不可欠です。
■ 教育の本質を見失わないために
社会は「短時間で高品質な成果」を求める時代に突入しました。しかし、ツールが進化しても、それを使う人間の思考力や倫理観が伴わなければ、教育の意味は失われます。
小論文指導は、単なる作文技術の訓練ではなく、「情報を読み解き、考え、自分の言葉で表現する力」を育てる営みです。AIの登場によって、その本質がより問われるようになった今、私たち教師は課題の設計そのものを見直す必要があります。
■ 遊びながら学ぶ力を育てる
高校生の多くは、日常的にゲームやSNSに親しみ、文字情報に触れる機会が減っています。だからこそ、学校は「遊びながら学ぶ」ことの価値を伝え、放課後の時間が貴重な学習時間であることに気づかせる必要があります。
生成AIの普及は、教育の在り方を根本から問い直す契機です。私たち教師は、時代に即した課題設定と、生徒が自ら学びたくなる仕掛けづくりを、今こそ真剣に考えるべき時に来ているのです。



