【捜神記】
中国、六朝時代の志怪小説集。20巻本と8巻本が伝わる。東晋の干宝の編。神仙・鬼神妖怪・死者の再生・動物の報恩復仇などの伝説や怪談を収める。 「コトバンク」より
本 文

漢の董永は、千乗の人なり。少くして偏孤、父と居り、力を田畝に肆くし、鹿車もて載せて自ら随ふ。父 亡するも以つて葬る無し。乃ち自ら売りて奴と為り、以つて喪事に供す。主人 其の賢なるを知り、銭一万を与へて、之を遣る。
永 三年の喪を行ひ、畢はるや、主人に還り、其の奴職に供せんと欲す。道に一婦人に逢ふ。曰はく、「願はくは子の妻と為らん。」と。遂に之と俱にす。
主人 永に謂ひて曰はく、「銭を以つて君に与ふ。」と。永曰はく、「君の恵みを蒙り、父の喪 収蔵す。永 小人なりと雖も、必ず勤めに服し力を致し、以つて厚徳に報いんと欲す。」と。主曰はく、「婦人 何をか能くする。」と。永曰はく、「能く織る。」と。主曰はく、「必ず爾らば、但だ君の婦をして我が為に縑百疋を織らしめよ。」と。
是に於いて永の妻 主人の家の為に織り、十日にして畢はる。女 門を出で、永に謂ひて曰はく、「我は天の織女なり。君の至孝なるに縁りて、天帝我をして君を助け債を償はしむるのみ。」と。語げ畢はり、空を凌ぎて去り、在る所を知らず。
漢の董永は、千乗の人である。若いときに母が亡くなり、父と暮らして、畑仕事に精を出し、小さな車に父を乗せて押しながらつき従っていた。やがて父が亡くなったが葬式をする金がなかった。そこで自分の身を売って奴隷となり、葬式の費用にあてた。彼を買った家の主人は彼が賢いのを知って、銭一万を与えて、家に帰した。
董永は父の喪に三年間服し、それが終わると、主人の家に戻り、奴隷の仕事をしようとした。途中で一人の女性に出会った。その女性は、「どうかあなたの妻にしてください。」と言った。(そこで)そのまま連れだって主人の家に行った。
主人は董永に、「あの銭はあなたにあげたのです。」と言った。董永は、「ご主人様のお恵みを受けて、父の葬礼を終えました。私はつまらない人間ですが、必ず精一杯お勤めを果たして、ご主人様のご恩に報いたいと思います。」と言った。主人は、「奥さんは何ができるのですか。」と尋ねた。董永は、「機織りができます。」と答えた。すると主人は、「そうであるのならば、ただあなたの奥さんに私のために百疋の絹を織らせてもらえばそれでよい。」と言った。
そこで董永の妻は主人の家のために機を織り、十日で織り終わった。妻は主人の家の門を出ると、董永に向かって、「私は天の織女です。あなたがこのうえなく親孝行なので、天帝が私にあなたを助けて借金を返してあげるようにとお命じになったのです。」と言った。言い終わると、空に舞い上がって、どこに行ったかわからなくなった。
問一 二重傍線部(a)~(d)の読みを、それぞれひらがな(現代仮名遣い)で答えなさい。
問二 傍線部①の訓読として適当なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
- ア 自ら売りて奴と為し、以つて喪事を供せんや。
- イ 自ら売りて奴の為にし、以つて喪事を供す。
- ウ 自ら売りて奴の為にし、以つて喪事に供せらる。
- エ 自ら売りて奴と為り、以つて喪事に供す。
問三 傍線部②・⑧の意味をそれぞれ次の中から選び、記号で答えなさい。
②
- ア 董永の徳行がすぐれていること。
- イ 董永が熱心に学問をしていたこと。
- ウ 主人には商売の才能があること。
- エ 主人が儀式の作法を知っていること。
⑧
- ア 幼い子供。
- イ 身分の低い者。
- ウ 身寄りのない者。
- エ つまらない者。
問四 傍線部③・⑤・⑥・⑦は、それぞれ誰のことか。次の中から選び、記号で答えなさい。(同じ記号を何度選んでもよい。)
- ア 董永
- イ 董永の父
- ウ 主人
- エ 一婦人
問五 傍線部④は「しゆじんにかへり、そのどしよくにきやうせんとほつす。」と訓読する。返り点をつけなさい。
問六 傍線部⑨は、具体的には何のことか。本文中から五字以内で抜き出しなさい。(訓点不要。)
問七 傍線部(ア)・(イ)を口語訳しなさい。
問八 傍線部⑩において、この女性はなぜ天に帰っていったのか。適当なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
- ア 董永の借金を返す手助けをしたが、約束の期限が過ぎたので。
- イ 実直な董永に好意を抱いたが、天帝が結婚を許さなかったので。
- ウ 債務の返済のため天帝に派遣されたが、務めを果たしたので。
- エ 絹百疋を織り終えたが、自分の正体が知られてしまったので。
問九 本文の解説として適当なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
- ア 善人を天が救うという、中国人の天への信頼が表れている。
- イ 死後も子供を見守った母の細やかな気遣いがうかがえる。
- ウ 身分制度を容認する社会への激しい怒りが表現されている。
- エ たとえ話を用いて、日々の労働の大切さを語っている。
問一 (a)わか (b)や (c)お (d)のみ
問二 エ
問三 ②=ア ⑧=エ
問四 ③=ア ⑤=ア ⑥=エ ⑦=ウ
問五

問六 与銭一万(四字)
問七 (ア)=奥さんは何をすることができるのか。
(イ)=ただあなたの奥さんに私のために絹百疋を織らせてください。


探究的な考察
マナト:みんな、こんにちは!今日は、漢文の「織女」って話について、ミズキと発表するで。
ミズキ:漢の時代は親孝行が「一番大事なこと」やったんや。親を大事にせんとあかん、っていうのが道徳としてしっかり根付いてたんやな。
マナト:そうやで。それをめっちゃ象徴しとるのがこの「董永」っていう人物の話や。その話を掘り下げていくで。
ミズキ:董永はな、若いときから親の面倒見てて、父親が死んだときに葬式代がなかったんや。そのために奴隷になって、お金を作ったんやで。
マナト:めっちゃ真面目やなあ。今やったら「そんなことせんでも」ってなるけど、当時はそれぐらい親孝行がガチで神聖な義務やったんやな。
ミズキ:ほんでな、董永の主人もえらい人や。董永のこと賢いと認めて一万銭あげて解放しはった。そんで、董永は主人への恩返しに奥さんに絹を織らせたんやけど…
マナト:その奥さんがなんと、天の織女!めちゃスピードで十日間で900メートルも織るんや。普通の人間じゃ絶対無理やわ。
ミズキ:これが寓話の面白いところで、孝行の力が天にまで届くっていうメッセージなんやな。七夕の織姫と似てるけど、恋愛じゃなくて孝行がテーマなんやで。
マナト:そうや。この話は、孝行したら、必ず報われるっていう理想像を昔の人に教えてくれてる感じや。
ミズキ:まとめると、項羽に勝った劉邦が興した漢という時代は「親孝行」が社会も政治も支える一番大切な価値観で、それを理想化した物語がたくさん残っとる。
マナト:今やったらやりすぎやけど、だからこそ、昔の人がどれだけ孝行を大事にしてたかが分かるんやな。
ミズキ:この話聞いて、みんなも親のこと大事に思ってくれたら嬉しいわ。
マナト・ミズキ:以上やで!




