学習のステップ
朗読や解説動画 を見て、全体のストーリーや雰囲気を感じ取ってみましょう。
原文と現代語訳 を交互に読みながら、内容のつながりを自然に理解していきましょう。
助動詞・文法・語句のポイント を確認しながら、基礎的な知識を身につけていきましょう。
確認問題に挑戦! 解き終わったら模範解答で、自分の理解度をチェックしてみましょう。
記事の最後にある 「探究的な考察」 も忘れずにチェックして、思考を広げてみましょう!
朗 読
かぐや姫は、月を眺めてもの思いに沈むことが多くなった。翁と嫗がその理由を尋ねると、自分は月の世界の者で、八月十五日の夜に迎えが来ると打ち明ける。帝は姫を守るため、兵士たちを翁の家に遣わした。
かかるほどに、宵うち過ぎて、子の時ばかりに、家のあたり昼の明かさにも過ぎて光りたり。①望月の明かさを、十合はせたるばかりにて、ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり。大空より、人、雲に乗りて降り来て、地より五尺ばかり上がりたるほどに、立ち連ねたり。これを見て、内外なる人の心ども、物におそはるる やうにて、あひ戦はむ心もなかりけり。②からうじて思ひ起こして、弓矢をとりたてむとすれども、手に力もなくなりて、萎えかかりたり。中に、心さかしき者、念じて射むとすれども、ほかざまへ行きければ、荒れも戦はで、心地ただ痴れに痴れて、③まもりあへり。
こうしているうちに、宵が(少し)過ぎて、午前零時頃に、家の辺りが昼の明るさにもまして光り輝いた。満月の明るさを、十も合わせているほどであって、そこにいる人の毛の穴までも見えるほどである。大空から、人が、雲に乗って降りてきて、地面から五尺ほど上がっているところに、立ち並んでいる。これを見て、家の内や外にいる人々の心は、超自然的な力を持つものに襲われるようで、戦おうとする気持ちもなくなった。やっとのことで気持ちを奮い立たせて、弓に矢をつがえようとするけれども、手に力がなくなって、物に寄りかかっている。(その)中で、気丈な者が、我慢して射ようとするけれども、(矢が)あらぬ方へ飛んでいったので、荒々しくも戦わずに、気持ちがただひたすらぼんやりして、(お互いに)見つめあっている。
立てる人どもは、装束のきよらなること、物にも似ず。飛ぶ車一つ具し たり。羅蓋さしたり。その中に王とおぼしき人、家に、「造麻呂、④まうで 来。」と言ふに、猛く思ひつる造麻呂も、物に酔ひたる心地して、うつぶしに伏せり。⑤いはく、「なむぢ、をさなき人。いささかなる功徳を、翁つくりけるによりて、なむぢが助けにとて、片時のほどとてくだしし を、そこらの年ごろ、⑥そこらの黄金給ひて、身を変へたるがごとなりに たり。かぐや姫は、罪を⑦つくり給へ り ければ、かくいやしき己がもとに、しばしおはしつる なり。罪の限り果てぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き嘆く。あたはぬことなり。はや出だしたてまつれ。」と言ふ。翁、答へて申す、「かぐや姫を養ひたてまつること、二十余年になりぬ。『片時』とのたまふに、あやしくなりはべり ぬ。また異所に、かぐや姫と申す人ぞおはす らむ。」と言ふ。「ここにおはするかぐや姫は、重き病をし給へば、え出でおはします まじ。」と申せば、その返り事はなくて、屋の上に飛ぶ車を寄せて、「いざ、かぐや姫、きたなき所に、いかでか久しくおはせ む。」と言ふ。立て籠めたる所の戸、すなはち、ただ開きに開きぬ。格子どもも、人はなくして開きぬ。嫗いだきてゐたるかぐや姫、外に出でぬ。えとどむまじければ、たださし仰ぎて泣きをり。
(雲の上に)立っている人たちは、衣装の清らかで美しいことは、比類するものもない。(空を)飛ぶ車を一つ伴っている。(また、)絹張りの大きな傘をさしている。その中で王と思われる人が、家に(向かって)、「造麻呂、出て参れ。」と言うと、(今までは)猛々しく思っていた造麻呂も、何かに酔ったような心地がして、うつぶせにひれ伏した。(天人の王が)言うには、「おまえ、心が未熟な人よ。わずかばかりのよい報いが受けられるような行いを、おまえ(=翁)がしたことによって、おまえの助けに(しよう)と思って、ほんのしばらくの間と思って(かぐや姫を)下界に下したのだが、非常に長い年月、(翁に)多くの黄金をお与えになって、(翁は)生まれ変わったように(裕福に)なってしまっている。かぐや姫は、(月の世界で)罪をお作りになったので、こんなに賤しいおまえのもとに、しばらくの間いらっしゃったのだ。罪を償う期間が終わったので、こうして迎えるのに、翁は泣いて嘆く。(かぐや姫を引き留めるのは)できないことだ。早くお出し申せ。(自尊敬語)」と言う。翁が、答えて申すには、「かぐや姫を養育申し上げることは、二十年以上になりました。(それをあなたが)『ほんのしばらくの間』とおっしゃるので、疑わしくなりました。また別のところに、かぐや姫と申す人がいらっしゃるのでしょう。」と言う。(翁はさらに)「ここにいらっしゃるかぐや姫は、重い病気をしていらっしゃるので、出ていらっしゃることはできないでしょう。」と申すと、その返事はなくて、(天人の王は)建物の上に飛ぶ車を寄せて、「さあ、かぐや姫、けがれたところに、どうして長くいらっしゃってよいものか、いや、よくありません。」と言う。(すると、かぐや姫を)閉じこめている塗籠の戸は、たちどころに、すっかり開いてしまった。(下ろしてあった)格子も(みな)、人はいないのに開いてしまった。嫗が抱いているかぐや姫は、(嫗から離れて)外に出てしまった。止めることができそうもないので、(嫗は)ただ(かぐや姫が連れ去られる様子を)見上げて泣いている。


【敬語に注意】
基本古語から古文常識まで 古文キーワード講義
問 題
- ①「望月の明かさを…見ゆるほどなり」という表現は、どのような効果があるか。
- 「望月」の意味を答えよ。
- ②「からうじて思ひ起こして」とは、何を「思ひ起こし」たのか。本文中から六字で抜き出せ。
- ③「まもりあへり」とは、誰が、どのようになっている状態か。簡潔に答えよ。
- ④「まうで来」に含まれている敬語について説明せよ。
- ⑤「いはく」とあるが、誰の発言か。
- ⑥「そこらの黄金」を口語訳せよ。
- ⑦Ⅰ「つくり給へり」は誰が誰に対して敬語を使っているか。Ⅱそのことからどのようなことがわかるか。
- ⑧「あたはぬことなり」を、何が「あたはぬこと」か分かるように口語訳せよ。
- ⑨「返り事」がなかったのはなぜか。
- ⑩「さし仰ぎて泣きをり」の主語は誰か。
- ①「望月の明かさを、十合はせたる」「毛の穴さへ見ゆる」など、具体的なものを例にあげ、異常に明るいことを印象深く伝える効果。
- 満月
- ②あひ戦はむ心
- ③兵士たちが(戦うこともできず)ぼんやりとお互いを見つめあっている状態。
- ④「まうづ」は謙譲語。天人の「王とおぼしき人」への自尊敬語になっている。
- ⑤(月から来た人の)王とおぼしき人。
- ⑥多く(たくさん)の黄金
- ⑦Ⅰ「王とおぼしき人」がかぐや姫に対して。Ⅱかぐや姫は「王とおぼしき人」が敬語を使うくらい高い身分であること。
- ⑧かぐや姫を引き留めるのはできないことだ。
- ⑨翁がかぐや姫を帰したくないばかりに嘘をついていることが明白であり、翁にこれ以上何を言っても埒が明かないと「王とおぼしき人」が判断したから。
- ⑩嫗

探究的な考察
ミワ:ねえリョウ、この天人の迎えの場面、敬語が多すぎて誰が誰に敬語使ってるのか全然わからないよ…。
リョウ:確かに敬語だらけだね。でも落ち着いて整理すれば大丈夫だよ。まず登場人物を確認しようか。天人の王、造麻呂(翁)、嫗、それにかぐや姫だよね。
ミワ:うん。で、一番偉いのは天人の王で、次がかぐや姫、その次が翁たちって感じ?
リョウ:実は違うんだ。一番偉いのはかぐや姫なんだよ。次が天人の王、一番下が翁たち。だから王もかぐや姫には敬語を使ってるんだ。
ミワ:えっ、そうなの?王様よりかぐや姫の方が偉いの?
リョウ:そう。かぐや姫は月の世界でも特別な存在だから、王でさえ敬語を使わなきゃいけないんだ。その身分関係を意識しながら敬語を見ていけばわかりやすいよ。じゃあ最初から順番に見ていこうか。
ミワ:最初に出てくるのが「まうで来」だよね。これって何?
リョウ:「まうで来」は謙譲語「まうづ」に「来」がついた形。天人の王が造麻呂に「出て参れ」って命令してるんだけど、これは自尊敬語なんだ。
ミワ:自尊敬語?何それ?
リョウ:自尊敬語っていうのは、自分側を高める表現なんだ。天人の王が造麻呂に「自分のところへ来い」って言う時に、自分の側を高めて「参れ」という形を使ってるんだよ。
【ポイント①】「まうで来」
ミワ:なるほど。じゃあ次の「給ひて」は?「そこらの黄金給ひて」のところ。
リョウ:これは尊敬語だね。天人の王が、かぐや姫が翁に「多くの黄金をお与えになって」と言ってる。かぐや姫の動作を尊敬語で表現してるんだ。
【ポイント②】「給ひて」
ミワ:次は「罪をつくり給へりければ」だよね。
リョウ:そう。これはかぐや姫の動作だから、「かぐや姫が罪をお作りになったので」という意味。天人の王がかぐや姫を敬って言ってるんだ。
【ポイント③】「つくり給へりければ」
ミワ:「おはしつるなり」っていうのも出てくるけど、これは?
リョウ:「おはす」は「ある」「いる」の尊敬語なんだ。「おはしつる」は「おはす」の連用形に完了の「つ」の連体形「つる」がついた形で、「いらっしゃった」という意味だよ。
【ポイント④】「おはしつるなり」
※「おはす」=「ある」「いる」の尊敬語
ミワ:次は「出だしたてまつれ」。これは謙譲語だよね?
リョウ:そう。「たてまつる」は謙譲語で「~申し上げる」という意味。でもこれも自尊敬語なんだ。天人の王が翁に「お出し申せ」って命令してるんだけど、かぐや姫を自分の側に出すことを謙譲語の形で表現してるんだよ。
【ポイント⑤】「出だしたてまつれ」
「たてまつれ」=命令形
自分(天人の王)の側を高める自尊敬語。
ミワ:自尊敬語ってさっきの「まうで来」と同じなんだね。
リョウ:そう。天人の王が自分の側を高めて表現してるんだ。次は翁の言葉を見てみよう。
ミワ:翁が答える「養ひたてまつること」だね。
リョウ:これは翁が自分の行為を謙遜して、かぐや姫を高めて言ってるんだ。「お育て申し上げること」だね。
【ポイント⑥】「養ひたてまつること」
「かぐや姫を養育申し上げることは、二十年以上になりました。」
ミワ:「のたまふ」っていうのも出てくるよね。
リョウ:「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語で「おっしゃる」という意味。「『片時』とのたまふに」は、翁が天人の王の言葉を受けて「『わずかな時間』とおっしゃるので」と言ってるんだ。
【ポイント⑦】「のたまふ」
「『ほんのしばらくの間』とおっしゃるので」
ミワ:「申す」も謙譲語だよね?何度も出てくる。
リョウ:そう。「申す」は「言ふ」の謙譲語で「申し上げる」という意味。翁が天人の王に対して話すときに使ってるんだ。
【ポイント⑧】「申す」
「申し上げられている人」が敬意を受ける人。
ミワ:「おはすらむ」っていうのも出てくるけど、これも「おはす」?
リョウ:そう。「おはすらむ」は「おはす」に現在推量の「らむ」がついた形。翁が「別の場所にかぐや姫という人がいらっしゃるのでしょう」って言い訳してるんだよ。
【ポイント⑨】「おはすらむ」
「別の場所に、かぐや姫という人がいらっしゃるのでしょう」
ミワ:「し給へば」の「給へ」も尊敬語だよね?
リョウ:正解。「重き病をし給へば」は、翁がかぐや姫について「重い病気をしていらっしゃるので」と天人の王に説明してるんだ。「給へば」は「給ふ」の已然形+接続助詞「ば」で順接の確定条件。「~なので」という意味だよ。
【ポイント⑩】「し給へば」
「重い病気をしていらっしゃるので」
ミワ:「おはします」っていうのも出てくるよね。これはさっきの「おはす」と違うの?
リョウ:「おはします」は「おはす」にさらに尊敬の「ます」がついた尊敬語なんだ。より高い敬意を表すんだよ。
ミワ:ねえ、ところで二重尊敬ってどういうこと?
リョウ:二重尊敬っていうのは、尊敬語を二つ重ねた形なんだ。「せ給ふ」とか「させ給ふ」みたいに、尊敬の意味を持つ要素が二つ使われてるんだよ。「おはします」は「おはす」+「ます」で、尊敬語がさらに丁寧になってる形だね。
【ポイント⑪】「え出でおはしますまじ」
「え~まじ」=不可能の表現
より高い敬意を表す尊敬語(二重尊敬の例:「せ給ふ」「させ給ふ」など)
ミワ:最後の「いかでか久しくおはせむ」の「おはせ」は?
リョウ:「おはせむ」は「おはす」の未然形「おはせ」に適当の「む」がついた形。「いかでか」は反語だから、「どうして長くいらっしゃってよいものか、いや、よくありません。」という意味になるんだ。
【ポイント⑫】「いかでか久しくおはせむ」
「いかでか~む」=反語表現
ミワ:だんだんわかってきた!敬語は誰から誰への敬意かを考えれば、整理できるんだね。ありがとう、リョウ!これで敬語の問題が出ても対応できそう。まずは誰から誰への敬意かを考えればいいんだね。
リョウ:そう。あと、敬語の種類(尊敬語か謙譲語か)を見分けるのも大事だよ。自尊敬語とか二重尊敬とか、特殊な形もあるから、それも覚えておくといいね。



