※このエピソードは僧侶の階級に対する認識と、それに対する一般人の無関心さを描いています。また、証空上人の怒りとその後の恥ずかしさを通じて、人間の感情の移ろいや矛盾を描いています。
学習のステップ
朗読や解説動画 を見て、全体のストーリーや雰囲気を感じ取ってみましょう。
原文と現代語訳 を交互に読みながら、内容のつながりを自然に理解していきましょう。
助動詞・文法・語句のポイント を確認しながら、基礎的な知識を身につけていきましょう。
確認問題に挑戦! 解き終わったら模範解答で、自分の理解度をチェックしてみましょう。
記事の最後にある 「探究的な考察」 も忘れずにチェックして、思考を広げてみましょう!
本 文
高野の(※1)証空上人、京へのぼりけるに、細道にて馬に乗りたる女の行きあひたり けるが、口ひきける男、あしくひきて、聖の馬を堀へ落として けり。
高野の証空上人が、 京へ上った時に、細道で馬に乗っている女に行きあった所、馬の口取りの男が、悪い具合に(馬の手綱を)引いて、上人の馬を堀に落としてしまった。
※1「証空上人」は伝不詳。
聖いと腹悪しくとがめて、「こは希有の狼藉かな。四部の弟子はよな、比丘よりは比丘尼は劣り、比丘尼より優婆塞は劣り、優婆塞より優婆夷は劣れり。かくのごとくの優婆夷などの身にて、比丘を堀へ蹴入れさする、未曾有の悪行なり」と言は【 A 】ければ、口ひきの男、「いかに仰せ (a)らるる (やらん、えこそ聞き知らね」と言ふに、上人なほいきまきて、「何と言ふぞ、非修非学の男」と荒らかに言ひて、きはまりなき 放言しつと思ひける気色にて、馬ひき返して逃げ【 B 】に けり。
①尊かりけるいさかひなる べし。
上人はたいそう腹を立てて文句を言って、「これはひどい乱暴であるよ。仏の四種の弟子とはな、出家した男の僧(A)より出家した女の僧(B)は劣り、出家した男の僧(A)より在家の男の僧(C)は劣り、在家の男の僧(C)より在家の女の僧(D)は劣るのだ。このような在家の女ごときの分際(D)で、(おまえより位の高い)出家した僧(自分)を堀へ蹴り入れるとは、前代未聞の悪行だ」と言った(注)ところ、口取りの男は「何をおっしゃっているのか、さっぱりわかりません」と言うので、上人はなおも息荒く怒って、「何を言うか。修行もせず、学問も無い男の分際で」と声を荒げて言ったところ、(さすがに我に返って)我ながらひどい暴言を言ったものだと思った様子で、馬を引き返してお逃げになったということだ。さぞかし尊いご叱責であったことだろう。
比丘(A)>比丘尼(B)>在家の男の僧(C)>優婆夷(D)の順番だと証空上人は力説している。
※2「やらん」の解説
問一 上の文中の【A】・【B】にそれぞれ「る」「らる」のどちらかを適当な活用形にして入れよ。
問二 傍線部(a)「らるる」を文法的に説明せよ。例)〇〇の助動詞「〇〇(終止形)」の○○形
問三 以下の(1)~(4)の傍線部の文法的意味を答えよ。
(1)〔鼎を〕抜かんとするに、おほかた抜かれず。
(2)〔私に〕問ひつめられて、え答へずなり侍りつ。
(3)〔後嵯峨院は〕大井の土民に仰せて、水車を造らせられけり。
(4)梅の匂ひにぞ、いにしへの事も、立ちかへり恋しう思ひ出でらるる。
問四 以下の【 】に「る」「らる」をそれぞれ活用させて入れよ。
(1)名を聞くより、やがて面影は推しはから【る】心地するを、
(2)さやうの所にてこそ、よろづに心づかひせ【らる】。
(3)〔後嵯峨院が〕亀山殿建て【らる】んとて、地を引か【る】けるに、
問五 本文中の傍線部①「尊かりけるいさかひなるべし。」について、なぜ「尊かりける」と述べているのか。その理由として適当なものを次の中から一つ選んで、記号で答えよ。
(ア)馬を引いていた男が仏道の理念にかなった発言をしたから。
(イ)馬を引いていた男が上人をやりこめる発言をしたから。
(ウ)上人が馬を引いていた男をまったく相手にしなかったから。
(エ)上人が俗人のように怒鳴ったことをすぐに反省したから。
(オ)上人と馬を引いていた男とが互いに対等に議論をしたから。
問一 【A】れ 【B】られ
問二 尊敬の助動詞「らる」連体形
問三 (1)可能 (2)受身 (3)尊敬 (4)自発
問四 (1)るる (2)らるれ (3)られ れ
問五 (エ)
マナト:「この証空上人の話、なんか面白いよね。最初は威張ってたのに、最後は逃げちゃうんだから。」
イチカ:「でも、上人の言ってることって完全に間違ってるよね。仏教って本来、身分や性別で差別するものじゃないでしょ?」
マナト:「そうそう。『仏の四種の弟子』とか言って、男女や出家・在家で序列つけてるけど、それって上人の偏見じゃない?」
イチカ:「しかも口取りの男性に『修行もせず、学問も無い』って言っちゃうところが最悪。自分が堀に落ちたのは事故なのに、八つ当たりもいいところよ。」
マナト:「でも最後に『我ながらひどい暴言を言ったものだ』って気づいて逃げるところは、まだ良心が残ってたってことかな。」
イチカ:「作者の『さぞかし尊いご叱責であったことだろう』っていう皮肉が効いてるよね。兼好法師も『偉い坊さんでもこんなもんだよ』って言いたかったんじゃない?」
マナト:「人間の本性って、困ったときに出るものなんだなあ。」





