朗 読
本 文
鎌倉の中書王にて、御鞠あり a けるに、雨降りてのち、いまだ庭のかわか b ざり ければ、「いかがせん」と沙汰ありけるに、佐々木の隠岐の入道、鋸の屑を車に積みて、多くたてまつりたり ければ、一庭に敷かれて、泥土の煩ひなかりけり。「取り溜めけん用意、ありがたし」と、人感じあへり けり。
このことを、ある者のかたり出でたり c しに、吉田中納言の、「乾き砂子の用意やはなかりける」とのたまひたり d しかば、恥づかしかりき。いみじと思ひける鋸の屑、いやしく、異様のことなり。庭の儀を奉行する人、乾き砂子を設くるは、故実なりとぞ。
問 題
問一 傍線部a~dの助動詞の終止形と活用形を答えよ。
問二 次の(1)~(4)の( )内の助動詞を正しく活用させて書け。
(1)雪のおもしろう降りたり(き)朝
(2)竜は鳴る神の類にこそあり(けり)。
(3)もろともにこそ笑ひ(き)。
(4)なにくれと挑むことに勝ちたる、いかでかうれしから(ず)む。
問三 次の傍線部の説明として適当なものを、後からそれぞれ選び記号で答えよ。
(1)鋸の屑を車に積みて、多くたてまつりたりければ
(2)独り寝がちに、まどろむ夜なきこそをかしけれ。
(3)冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ。
(4)「さ候へばこそ、世にありがたき物には侍りけれ。」
(ア)過去の助動詞の已然形 (イ)詠嘆の助動詞の已然形
(ウ)形容詞の已然形活用語尾の一部 (エ)その他
問四 傍線部「故実なりとぞ」について、以下の設問に答えよ。
「故実なりとぞ」は「(予め乾いた砂を用意しておくのが)昔からの作法だそうだ」という意味である。文意に合うように「故実なりとぞ」の後に省略されている語句(古語)を答えよ。
模 範 解 答
問一 a けり 連体形 b ず 連用形 c き 連体形 d き 已然形
問二 (1) し (2) けれ (3) しか (4) ざら
問三 (1) ア (2) ウ (3) エ (4) イ
問四 言ひける(言ふ)