学習のステップ
朗読や解説動画 を見て、全体のストーリーや雰囲気を感じ取ってみましょう。
原文と現代語訳 を交互に読みながら、内容のつながりを自然に理解していきましょう。
助動詞・文法・語句のポイント を確認しながら、基礎的な知識を身につけていきましょう。
確認問題に挑戦! 解き終わったら模範解答で、自分の理解度をチェックしてみましょう。
記事の最後にある 「探究的な考察」 も忘れずにチェックして、思考を広げてみましょう!
本 文
この場面までの流れ
- 1. 光源氏の病気と北山行き 光源氏が瘧病(マラリアのような熱病)を患い、加持祈祷で有名な僧が北山にいると聞き、お忍びで訪れます。
- 2. 僧の庵での滞在 某の僧の庵に滞在し、加持祈祷を受けます。日数を重ねるうちに病気は快方に向かいます。
- 3. 暇な時間と散策 日が長く所在ないので、夕暮れの霞んだ時刻に、惟光朝臣だけを連れて庵の周辺を散策します。
- 4. 小柴垣の庵の発見 小柴垣に囲まれた、こぎれいな庵を見つけます。
垣間見 以下の場面では、その庵の西面から中を覗き見ると尼君が持仏の前で経を読んでいる様子が見えます。
病気にかかり北山で治療を受けた光源氏(18歳)は、たまたま通りかかった家で、密かに恋仲にあった藤壺に似た少女(若紫・ここでは10歳ぐらい)を垣間見た。この少女は藤壺の兄(兵部卿宮)の子で母親が亡くなってから祖母の北山の尼君に育てられていた。光源氏は後見人としてこの少女を引き受けることを申し出るが断られてしまう。藤壺と光源氏は一度だけ逢瀬を果たし、藤壺は光源氏の子を妊娠していた。秋、尼君が亡くなると、兵部卿宮は少女を引き取ろうとする。これを知った光源氏は身寄りのなくなった少女(若紫)とその乳母を二条院に連れて帰り、若紫を自分の理想の女性に育てようと考えた。




本文中の青いアンダーラインは敬語を表す

【朗読】源氏物語 若紫
日もいと長きに、つれづれなれば、夕暮れのいたう霞みたるに紛れて、かの小柴垣のもとに立ち出で給ふ。人々は帰し給ひて、惟光朝臣とのぞき給へば、ただこの西面にしも、持仏据ゑ奉りて行ふ尼なり けり。簾少し上げて、花奉るめり。中の柱に寄りゐて、脇息の上に経を置きて、いと悩ましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。四十余ばかりにて、いと白うあてに痩せたれど、つらつきふくらかに、まみのほど、髪のうつくしげにそがれ たる末も、なかなか長きよりもこよなう 今めかしきものかな、とあはれに見給ふ。
日もまことに長いうえに、なすこともなく退屈なので、(光源氏は)夕暮れでたいそう霞んでいるのに紛れて、あの小柴垣のもとにお出かけになる。供の者たちは(都に)お帰しになって、惟光朝臣と(小柴垣の内を)おのぞきになると、ちょうどこの(目の前の)西に面した部屋に、持仏を安置申し上げてお勤めをする(それは)尼なのであった。簾を少し上げて、花をお供えするようである。中央の柱に寄りかかって座り、脇息の上に経を置いて、ひどく大儀そうに読経している尼君は、並の身分の人とは思えない。四十を過ぎたくらいで、まことに色が白く上品で痩せているけれども、頰はふくよかで、目もとの辺りや、髪が可憐な感じで(肩の辺りで)切りそろえられている端も、かえって長いものより格別に当世風で気がきいているものであるよ、と(光源氏は)しみじみと心ひかれてご覧になる。

清げなる大人二人ばかり、さては、童べぞ出で入り遊ぶ。中に、十ばかりにやあらむと見えて、白き衣、山吹などの萎えたる着て走り来たる女子、あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えて、うつくしげなる かたちなり。髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。 ※日本の伝統配色 (春) | 襲の色目 – color-sample.com
こぎれいな年配の女房が二人ほど、それから、女の童が出入りして遊んでいる。その中に、十歳くらいであろうかと見えて、白い下着に、山吹襲(の上着)などで着慣れて柔らかになっている上着を着て走ってきた女の子は、大勢見えていた子どもたちとは比べようもなく、成人後(の美しさ)が予想されて、見るからにかわいらしい容貌である。髪は扇を広げたようにゆらゆらとして(豊かであり)、顔は(泣いた後らしく)手でこすってひどく赤くして立っている。
「何ごとぞや。童べと腹立ち給へるか。」とて、尼君の見上げたるに、少しおぼえたるところあれば、子な めりと見給ふ。「雀の子を犬君が逃がしつる、伏籠のうちに籠めたり つるものを。」とて、いと口惜しと思へり。このゐたる大人、「例の、心なしの、かかる わざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。いづ方へかまかりぬる、いとをかしう やうやうなりつる ものを。烏などもこそ 見つくれ。」とて立ちて行く。髪ゆるるかにいと長く、めやすき人な めり。少納言の乳母とぞ人言ふめるは、この子の後見なる べし。
「何事ですか。子どもたちとけんかをなさったのですか。」と言って、尼君が見上げている顔立ちに、(その子と)少し似ているところがあるので、(尼君の)子であるようだと(光源氏は)ご覧になる。(女の子は)「雀の子を犬君が逃がしてしまったの、伏籠の中に閉じ込めておいたのに。」と言って、いかにも残念だと思っている。そこに座っていた年配の女房が、「いつものように、うっかり者(の犬君)が、こういう不始末をしてお𠮟りを受けるなんて、本当に嫌なことですね。(雀の子は)どちらへ参りましたでしょうか、本当にだんだんかわいらしくなってきたというのに。烏などが見つけでもしたら大変です。」と言って立って行く。髪がゆったりとしてとても長く、見苦しくない人のようである。少納言の乳母と人が呼んでいるらしい(この)人は、この子の世話役なのであろう。

尼君、「いで、あな幼や。いふかひなう ものし給ふかな。おのが かく今日明日におぼゆる命をば、何とも思したらで、雀慕ひ給ふほどよ。罪得ることぞと常に聞こゆるを、心憂く。」とて、「こちや。」と言へば、つい ゐたり。つらつきいとらうたげにて、眉のわたりうちけぶり、いはけなく かいやりたる額つき、髪ざし、いみじううつくし。ねびゆかむさまゆかしき人かな、と目とまり給ふ。さるは、限りなう心を尽くし聞こゆる人に、いとよう似奉れるが、まもらるる なり けりと思ふにも涙ぞ落つる。
尼君は、「本当にまあ、なんと幼いこと。子どもっぽくていらっしゃいますね。私のこのように今日明日と思われる命を、何ともお思いにならないで、雀を追い回していらっしゃるとは。(生き物を捕らえるのは)仏罰を被ることになりますよといつも申し上げておりますのに、情けないこと。」と言って、「こちらへ(いらっしゃい)。」と言うと、(女の子は)膝をついて座った。顔つきが実にかわいらしくて、眉の辺りが(眉毛を抜いていないために)ぼんやりと煙って、あどけなく(髪を)払いのける額の様子、髪の生えぐあいが、とても愛らしい。(光源氏は)これから成人していく様子を見ていたい人だなあ、と目がとまりなさる。それというのも実は、このうえなく心を込めてお慕い申し上げるお方に、実によく似申し上げていることが、思わず見つめられる(理由な)のであった、と思うにつけても涙がこぼれる。
尼君、髪をかき撫でつつ、「梳ることをうるさがり給へど、をかしの御髪や。いとはかなう ものし給ふこそ、あはれに後ろめたけれ。かばかりになれば、いとかからぬ人もあるものを。故姫君は、十ばかりにて殿におくれ給ひしほど、いみじうものは思ひ知り給へりしぞかし。ただ今おのれ見捨て奉らば、いかで世におはせむとすらむ。」とて、いみじく泣くを見給ふも、すずろに悲し。幼心地にも、さすがにうちまもりて、伏し目になりてうつぶしたるに、こぼれかかりたる髪、つやつやとめでたう見ゆ。
生ひ立たむ ありかも知らぬ 若草を おくらす露ぞ 消えむそらなき
またゐたる大人、「げに。」とうち泣きて、
初草の 生ひゆく末も 知らぬまに いかでか露の 消えむとすらむ
と聞こゆるほどに、僧都あなたより来て、「こなたはあらはにや侍らむ。今日しも端におはしましけるかな。この上の聖の方に、源氏の中将の、瘧病まじなひにものし給ひけるを、ただ今なむ聞きつけ侍る。いみじう忍び給ひければ、知り侍らで、ここに侍りながら、御訪ひにもまうでざり ける。」とのたまへば、「あないみじや。いとあやしきさまを人や見つらむ。」とて、簾下ろしつ。「この世にののしり給ふ光源氏、かかるついでに見奉り 給はむや。世を捨てたる法師の心地にも、いみじう世の憂へ忘れ、齢延ぶる人の御ありさまなり。いで御消息聞こえむ。」とて立つ音すれば、帰り給ひぬ。
尼君は、(女の子の)髪をかきなでながら、「櫛ですくことを嫌がりなさるけれども、きれいな御髪ですこと。本当にたわいなくていらっしゃるのが、不憫で気がかりです。これくらい(の年齢)になれば、全くこんなふう(に幼稚)でない人もありますのに。亡くなった姫君は、十歳ほどで殿(=父君)に先立たれなさった頃には、しっかりと物の道理をわきまえていらっしゃいましたよ。たった今にでも私が(あなたを)お見捨て申し(て死んでしまっ)たならば、どうやってこの世に生きておいでになろうとするのでしょうか。」と言って、ひどく泣くのをご覧になるにつけても、(光源氏は)わけもなく悲しい。(その女の子は)幼心にも、やはり(しんみりして)じっと(尼君を)見つめて、伏し目になってうつむいた時に、(顔に)こぼれかかってくる髪の毛が、つやつやとしてみごとに美しく見える。これからどこで生い立っていくのかも分からない若草のようなこの子を後に残して消えていく露の身の私は、消えようにも消える空もありません。(死ぬにも死にきれませんよ。)また(そこに)座っていた年配の女房が、「本当に(そうです)。」と泣いて、初草の生い立っていく将来のことも分からないうちに、どうして露は消えようとするのでしょうか。(それまでは生きていらっしゃいませ。)と申し上げているところに、(尼君の兄の)僧都が向こうから来て、「こちらは(外から)まる見えではございませんか。今日に限って端近においでですな。ここの上の聖の所に、源氏の中将が、瘧病のまじないにおいでになったことを、たった今聞きつけました。たいそうお忍びでいらっしゃったので、知りませんで、ここにおりながら、お見舞いにも参りませんでした。」とおっしゃると、(尼君は)「あら大変。本当に見苦しい様子を誰かが見てしまったかしら。」と言って、簾を下ろしてしまった。「世間で評判が高くていらっしゃる光源氏を、このような機会に拝見なさいませんか。俗世を捨ててしまった法師の心地にも、すっかりこの世の心配事を忘れ、(見ただけで)命が延びると思われるほどの(美しい)ご容姿なのです。さあ、ご挨拶を申し上げましょう。」と言って(僧都が座を)立つ音がするので、(光源氏は)お帰りになった。
あはれなる人を見つるかな、かかれば、このすき者どもはかかる歩きをのみして、よくさるまじき人をも見つくるなり けり、たまさかに立ち出づるだに、かく思ひのほかなることを見るよ、とをかしう思す。さても、いとうつくしかりつる児かな、何人なら む、かの人の御代はりに、明け暮れの慰めにも見ばや、と思ふ心深うつきぬ。
何とも可憐な人を見たことだなあ、こうだから、この色好みの人たちはただもうこのような忍び歩きをして、めったに見つけられないような人をもうまく見つけるというわけなのだな、たまに出かけてさえ、このように思いもかけないことを目にするものだよと、おもしろくお思いになる。それにしても、実にかわいらしい子であったなあ、どういう人なのだろう、あのお方(=藤壺の宮)のお身代わりとして、明け暮れの心の慰めにでも見たいものだ、と思う心が(光源氏の中に)深くとりついてしまった。
アマネ:キュウジ、古典の宿題見た?若紫のとこ。なんか源氏が18歳で、若紫が10歳って…大丈夫なの?
キュウジ:俺もそこ気になった。ちょっと検索したら「平安時代の結婚は現代と違う」って出てきたけど…でも10歳って小学生じゃん。
アマネ:私も調べたよ。「平安時代は数え年だから実際は9歳」って書いてあった。えっ、余計ひどくない?
キュウジ:待って待って、その情報怪しくない?俺が見たサイトだと「当時の10歳は現代の15歳くらいの精神年齢」って書いてあったよ。
アマネ:え、それも変じゃない?人間の成長って時代で変わるの?でも確かに別のサイトでは「平安時代の女性は12歳で成人」って…
キュウジ:俺が見つけたのもっとすごいぞ。「紫式部は源氏物語で理想の恋愛を描いた。若紫との関係は純愛」だって。純愛って…
アマネ:いやいや、教科書読み直したら、源氏が若紫を「理想の女性に育てよう」って連れて帰るんでしょ?これって…
キュウジ:グルーミングだよな、完全に。でもネットには「源氏物語は世界最古の恋愛小説」って書いてるサイトもあって…
アマネ:私が見たブログだと「清少納言も源氏物語を絶賛した」って書いてあったけど、でも清少納言って紫式部のライバルじゃなかった?
キュウジ:あ、それ絶対嘘だろ。清少納言の『枕草子』に「源氏物語なんて」みたいなこと書いてなかった?…いや、書いてたっけ?
アマネ:わからない…もうネットの情報が多すぎて何が本当かわからないよ。「源氏物語は平安時代のベストセラー」って書いてるサイトもあるし。
キュウジ:ベストセラーって…活版印刷もない時代にベストセラーとか意味不明だろ。でも「貴族の間で大評判だった」なら分かるけど。
アマネ:そうそう!私も「源氏物語は庶民にも愛読された」ってサイト見つけたけど、庶民って字読めたの?
キュウジ:多分無理だろ。でも俺が見たサイトは「源氏物語は女性の地位向上に貢献した」って…地位向上?10歳を誘拐してるのに?
アマネ:もう何がなんだか…先生に聞くしかないかも。ネットって便利だけど、何でも書けちゃうから怖いね。
キュウジ:そうだな。俺たちも今、ネットの情報を都合よく解釈してるのかもしれないし。でも源氏と若紫の関係は現代では確実にアウトだよな。
アマネ:それは間違いない。でも当時の価値観で読むべきなのか、現代の価値観で批判すべきなのか…古典って難しい。
キュウジ:結局、ちゃんとした資料で調べなきゃダメってことか。ネットって便利だけど、嘘と本当が混ざってて見分けがつかない。
アマネ:特に昔のことって検証しづらいから、適当なこと書いてるサイトも少なくないかも。私たち、もしかして間違った情報をいっぱい覚えちゃってる?
キュウジ:考えたくないけど、その可能性は高いな。情報の見極めって大事だけど、俺たちにはまだ難しすぎるかも。
アマネ:うん…ネットの情報を鵜呑みにしちゃダメだってことはよくわかった。怖いけど勉強になったかも。












