朗 読
本 文
後鳥羽院の御時、信濃前司行長、稽古の誉ありけるが、楽府の御論義の番に召されて、七徳の舞を二つ忘れたり ければ、五徳の冠者と異名をつきに けるを、心憂き事にして、学問を捨てて遁世したり けるを、慈鎮和尚、一芸あるものをば下部までも召し置きて、不便にせ aさせ給ひければ、この信濃入道を扶持し給ひけり。
この行長入道、平家物語を作りて、生仏といひける盲目に教へて語ら bせ けり。さて、山門のことを、ことにゆゆしく書けり。九郎判官の事はくはしく知りて書き載せたり。蒲冠者の事は、よく知らざり ける にや、多くのことどもを記しもらせり。武士の事、弓馬のわざは、生仏、東国の者にて、武士に問ひ聞きて書か cせ けり。かの生仏が生れつきの声を、今の琵琶法師は学びたる なり。
問題(す・さす・しむ)
問一 傍線部a・bの助動詞の意味と活用形を答えよ。
問二 以下のA「しめ」と意味が同じものを(1)~(3)から選び、番号で答えよ。
(A)この幣の散る方に、御船すみやかに漕がしめたまへ。
(1)やがて山崎にて出家せしめ給ひて
(2)おほやけも行幸せしめ給ふ。
(3)人を感動せしむること、真なるかな。
問三 傍線部c 「せ」と意味が異なるものを次の(1)~(3)から一つ選び、番号で答えよ。
(1)黒戸は、小松御門位につかせ給ひて、
(2)左右の袖を人に持たせて、
(3)いその禅師といひける女に教へて舞はせけり。
問四 次の(1)~(3)の( )内の助動詞を活用させよ。
(1)愚かなる人の目をよろこば(しむ)楽しみ
(2)或る人の尋ね(さす)給ひしに
(3)華厳院弘舜僧正、解きてなほさ(す)けり。
問五 本文の内容と合致しないものを次から一つ選び、記号で答えよ。
(ア)行長は「七徳の舞」のうち二つを忘れて不名誉なあだ名をつけられた。
(イ)琵琶法師は生仏の生まれた東国なまりの声を真似をしていた。
(ウ)『平家物語』には源範頼のことが大げさに詳しく書かれている。
(エ)慈鎮和尚は一芸ある者の世話をしたので、行長の生活も世話した。
模 範 解 答
問一 a 尊敬・連用形 b 使役・連用形
問二 (3)
問三 (1)
問四 (1)しむる (2)させ (3)せ
問五 (ウ)
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