更級日記【門出・あこがれ】

本  文

朗読 更級日記 NHK高校講座

 Ⅰあづまぢの道のはてよりも、かたにa人、かばかりやしかりを、かに思ひはじめけること、「世の中に物語といふもののなるを、かでばや。」と思ひつつ、れづれなる昼間、宵居よいいなどに、姉・継母ままははなどやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどかしさまされど、わが思ふままに、らに かでかおぼえ語ら

 Ⅱみじくもとなきままに、等身薬師仏やくしぼとけを造りて、手洗ひなどして、人まそかに入りつつ、「京に上げたまて、物語の多くぶらふ、ある限り見せたまへ。」と、身を捨ててぬかをつき、祈り申すほどに、十三になる年、「のぼら。」とて、九月ながつき三日みか して、いまたちといふ所に移る。

 Ⅲ年ごろ遊び慣れe所を、らはにこほち散らして、たち騒ぎて、日のぎわ、いとごく霧りわたりaに、に乗るとて、うち見やりaば、には参りつつ、ぬかをつきf薬師仏やくしぼとけの立ちたまを、見捨て奉る、悲しくて、人知れhうち泣かi

注)ありけり。←助動詞 奉る ←敬語

【品詞分解】門出 manapedia

weblio古語辞典

口語訳

Ⅰ)東海道の道の果て(である常陸ひたちの国)よりも、もっと奥のほう(の上総かずさの国)で育った人(私)は、どんなにか洗練されず田舎じみていただろう、どういうわけで(そんなことを)思い始めたのだろうか、「世の中に物語というものがあるとかいうが、(それを)どうにかして見たいものだ。」と思い続けながら、することがなく退屈な昼間や、夜の家族の語らいの時などに、姉や継母ままははなどというような人々が、あの物語(がどうとか)、この物語(がどうとか)、(また)『源氏物語』の光源氏の様子などと、(いろいろな物語の)ところどころを話しているのを聞くにつけて、たいそう読みたいという気持ちがつのけれども、私の思いどおりに、(人々が)どうしてそらんじて(暗記して)話してくれようか(いやそんなことはない)

Ⅱ)(私は)たいへんじれったいので、自分と同じ身の丈に薬師仏を作って、手を洗い清めたりなどして、人の見ていない時にひそかに(仏間ぶつまに)入っては、「どうか(私を)京に早く上らせなさって、(都には)物語がたくさんあるそうですが、(それを)あるだけお見せください。」と、一心にひたいを床につけて、(薬師仏に)お祈り申し上げているうちに、(私が)十三歳になった年に、(父の任期も終わって、)「京都へ上ろう。」というので、九月三日に門出をして、いまたちという所に移った。

Ⅲ)数年来、遊び慣れてきた家を、外から中が見えるほど、あちらこちら壊して、(人々は荷造りなどで)大騒ぎして、日暮れまぎわの時で、たいそうひどく霧が立ち込めてきた時に、車に乗るというので、(家のほうを)ちょっと眺めやると、人の見ていない時に参上して、額を床につけて礼拝した薬師仏がお立ちになっていらっしゃるのを、お見捨て申し上げるのが悲しくて、(私はつい)人知れず泣けてしまうのだった。

語句の確認

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【古文解説】あこがれ(門出/東路の道の果て)〈更級日記〉音読・内容解説|万葉授業

『古のオタク「更級日記」』奥友沙絢

NHK高校講座 第35回 更級日記 (1)~門出(1)~

  • 本文の I について以下の設問に答えよ。
    1. 「あづまぢの~生ひ出でたる人」とは誰のことか?
    2. 「いかばかりかはあやしかりけむ」の中から助動詞を抜き出し、文法的に説明せよ。
    3. 「いかに~ことにか」の「にか」の後ろに省略されている語句を答えよ。
    4. 「いかで見ばや」を口語訳し、「ばや」を文法的に説明せよ。
    5. 「ところどころ語る」とは誰が、何を語ったのか?
    6. 「そらにいかでかおぼえ語らむ」を口語訳せよ。
  •  答 例

NHK高校講座 第36回 更級日記 (2)~門出(2)~

  • 本文の II について以下の設問に答えよ。
    1. 「いみじく心もとなきままに」とは誰のどのような気持ちを表しているか?
    2. 「京に疾く上げ給ひて」の中から敬語を抜き出し、その種類を答えよ。
    3. 「ある限り見せたまへ」の「たまへ」の敬意の方向を説明せよ。
    4. 「物語の多くさぶらふなる」を口語訳し、「さぶらふ」の敬語の種類を答えよ。
    5. 「のぼらむ」を主語と目的語を補って口語訳せよ。
    6. 「九月」以外の月の異名を全て答えよ。
  • 解 答 例
  • 本文の Ⅲ について以下の設問に答えよ。
    1. 「あらはに」の「に」を文法的に説明せよ。
    2. 「日の入り際の」の格助詞「の」の意味を答えよ。
    3. 「参りつつ」の「参り」の敬語の種類と敬意の方向を説明せよ。
    4. 「薬師仏の立ち給へるを」の「る」を文法的に説明せよ。
    5. 「悲しくて」とあるが、何が悲しいのか、分かりやすく説明せよ。
    6. 「人知れずうち泣かれぬ」から助動詞を全て抜き出し、それぞれ文法的に説明せよ。
  • 解 答 例

参考資料

菅原孝標の女の更級いちはら紀行(参考地図あり)

菅原孝標の女の更級いちはら紀行 菅原孝標の女、市原に現る!

菅原孝標女と源氏物語(成城大学 上野英二)

【高校古典 文学史】日本の文学史一問一答問題

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