大江山『十訓抄』


本  文

 和泉式部いずみしきぶ保昌やすまさにて、丹後に下りけるほどに、京に歌合うたあわせありけるに、小式部内侍こしきぶのないし、歌詠みにとられて詠みけるを定頼中納言さだよりのちゅうなごんたはぶれて小式部内侍ありけるに、「丹後へつかはしける人は参りたりや。いかに 心もとなくおぼすらむ。」と言ひて、つぼねの前を過ぎられけるを、御簾みすよりなからばかり出でてわづかに直衣のうしの袖をひかへて

大江山/いくのの道の/遠ければ/まだふみもみず/あま橋立はしだて と詠みかけけり。

 思はずに、あさましくて、「こはいかに、かかるやうやはある。」とばかり言ひて、返歌にも及ばず、そでを引き放ちて、逃げられけり。小式部、これより歌詠みの世に覚え出で来にけり。これはうちまかせての理運のことなれども、かのきょうの心には、これほどの歌、ただいまみ出だすべしとは、知られざりけるにや

口 語 訳

十訓抄『大江山』品詞分解/現代語訳/解説①

セイラ
セイラ

せんせー、この「おーえやま」マジまったくわかんない笑

渡邊克也
渡邊克也

じゃ、読みの練習から始める!読めるかな?

セイラ
セイラ

ぜんっぜん漢字よめないのに泣 あー、でもふりがなついてる! この「じゅっくんしょう」ってなに?

渡邊克也
渡邊克也

この話が入ってる本の名前で鎌倉時代の説話集。ちなみにそれは「じっきんしょう」って読む!

セイラ
セイラ

「じっきんしょう」?変な読み方笑 「せつわ」ってなに?

渡邊克也
渡邊克也

十訓抄じっきんしょう」は仏様の十箇の教え、それぞれに合ったお話をまとめた本だよ。「説話」って言うのは人々の間で語り伝えられた神話・伝説・民話などのことだね

セイラ
セイラ

登場する人がいっぱいでだれがだれだか、まったくわかんない!笑

渡邊克也
渡邊克也

しょうがないなあ!こういう関係だけどわかるかな?

セイラ
セイラ

「わいずみしきぶ」と「やすまさ」?の子どもが「こしきぶ」なんとかだね?「さだより」のやじるしはなに?

渡邊克也
渡邊克也

まあまあ合ってるけど、「わいずみ」じゃなくて「いずみ」だね。「←」は定頼中納言が小式部内侍を誘ってるってこと。ちなみに定頼中納言はおじさんで小式部内侍はまだ中学生くらいかな

セイラ
セイラ

マジで?「さだより」ゲスくない?笑

渡邊克也
渡邊克也

定頼中納言は和泉式部(お母さん)も誘ってた

セイラ
セイラ

「さだより」マジでクズ笑笑

内 容 理 解

和泉式部いずみしきぶ保昌やすまさにて、丹後に下りけるほどに、京に歌合うたあわせありけるに、

小式部内侍こしきぶのないし、歌詠みにとられて詠みけるを定頼中納言さだよりのちゅうなごんたはぶれて小式部内侍ありけるに、

「丹後へつかはしける人は参りたりや。いかに心もとなくおぼすらむ。」

と言ひて、つぼねの前を過ぎられけるを、御簾みすよりなからばかり出でてわづかに直衣のうしの袖をひかへて

大江山/いくのの道の/遠ければ/まだふみもみず/あま橋立はしだて

と詠みかけけり。   

セイラ
セイラ

「いずみしきぶがやすまさの奥さんで丹後?にくだったほどに京都?に歌合わせに行った」?「たんご」って地名でしょ?京都も地名だよね?いっぺんに行けるわけないじゃん ぴえん

渡邊克也
渡邊克也

ここでは「和泉式部が丹後に行ったころに京都で歌合があった」という意味。歌合っていうのは二人で和歌を詠み合って判者(審判)がどっちがいいか決める遊びのことなんだ。

セイラ
セイラ

丹後へつかはした人は参ったか?いかに心もとなくおぼす?らん?」マジでわかんない笑笑

渡邊克也
渡邊克也

みんなが使ってる教科書にはここは注釈がついてると思うよ。「丹後へお遣りになった人は帰って来ましたか?(その使いが)どんなにか待ち遠しく思ってらっしゃるでしょう」みたいな感じだろう。「おぼす」は尊敬語で「お思いになる」「らん」は助動詞で「~だろう」現在推量。

セイラ
セイラ

使い?丹後へ?何言ってるの、このオジサン?マジでわかんない笑笑

お母さんが丹後へ行ってしまって、小式部内侍がいる京都でこれから歌合があって彼女がそれに参加するんだ。中納言は彼女にふざけて嫌味を言ってる。「お母さんのいる丹後へ使者を送って(和歌の上手なお母さんに作ってもらった和歌を持って)使者は帰って来たのか?(それがなければ)あなたはとても不安でしょうね?」こんな感じの意味になるよ!

セイラ
セイラ

こしきぶはお母さんに歌を作ってもらったの?

渡邊克也
渡邊克也

続きを訳してみたらわかる

セイラ
セイラ

「と言って、つぼね?の前を通り過ぎたら、みす?から半分出て、わづかにのうし?の袖をつかんだ」う~ん、袖をつかんだのはこしきぶでしょう?なんで?笑笑

渡邊克也
渡邊克也

その後の和歌はだれが詠んだ?

セイラ
セイラ

わかった!こしきぶだ!わたしも和歌くらい詠めるんだっていう感じ!

渡邊克也
渡邊克也

そうだね!『大江山を越えて、生野へとたどっていく道が遠いので、私はまだ天の橋立をんでみたこともありませんし、母からの手紙も見ておりません。』この和歌には掛詞が二つあるので注意しよう!地名「生野」に「行く野」がかかっている。踏みいれるという意味の「踏み」に手紙「」がかかっている。さて、小式部内侍は何を言いたかったのかな?

セイラ
セイラ

生野がどこかわかんないけど、おかあさんには手紙をもらってないってこと…つまり、私はひとりでできる!ってこと?

渡邊克也
渡邊克也

その通り!やるな、せーら!それから、この動画も参考にさせてもらおう

思はずに、あさましくて、

「こはいかに、かかるやうやはある。」

とばかり言ひて、返歌にも及ばず、そでを引き放ちて、逃げられけり。


小式部、これより歌詠みの世に覚え出で来にけり。

これはうちまかせての理運のことなれども、かのきょうの心には、

これほどの歌、ただいまみ出だすべしとは、知られざりけるにや。

セイラ
セイラ

まだあんの?めっちゃ長い!笑 つぎはえっと…「思いがけなくて、なんであさましくて?こはいかに?かかるやうやはある?」なになに?笑笑 これ日本語?

渡邊克也
渡邊克也

「あさましくて」は古文では「驚き呆れる」だよ!小式部内侍がすごい歌を詠んだんで、中納言はびっくりしたんだね笑「こわいかに」って読むの!さっき練習したでしょ!「恐い蟹?」じゃないよ「これはどうしたことだ!」っていう意味。次のは「かかるようやわある」って読む!「こんなことあるか!」って驚いてる 笑

セイラ
セイラ

ああ、そっか…「といって、へんか?しないで逃げてった」…中納言、逃げたんだ!恥ずかしかったんだね?

渡邊克也
渡邊克也

またまた正解!やるな、せーら!

セイラ
セイラ

「こしきぶはここから歌詠みの世?世界?で覚えが出てきた」?なんとなくわかるけど「覚え」ってなに?

渡邊克也
渡邊克也

いいとこ気づいたね!「覚え」は評判だよ!小式部内侍はこの和歌を詠んで有名になったってことさ!

セイラ
セイラ

もうちょっとだけど…疲れた笑笑

渡邊克也
渡邊克也

OK! 最後は先生がヤルから!「こういうことは(和泉式部の娘であれば)ごく普通の当然のことであったけれど、あの卿(定頼中納言)の心中ではこれほどの歌をすぐに詠み出すとご存じなかったのだろうか?」となる

セイラ
セイラ

こしきぶは上手に歌詠んだってお話なんだね笑

渡邊克也
渡邊克也

そのとおり!理解したね、せーら!ちなみに小式部内侍の和歌はこれ以外残ってない…まさにいわゆる「一発屋」だね!

こんなパロディもあるよ→「ママからの手紙は持ってきたか?」

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