朗 読
本 文
人におくれて、四十九日の仏事に、ある聖を請じ侍りしに、説法 いみじくして、皆人、涙を流しけり。導師帰りて後、聴聞の人ども、「いつよりも、ことに今日は尊く覚え侍り aつる」と感じ合へり し返り事に、ある者の言はく、「何とも候へ、あれほど唐の狗に似候ひな ん上は」と言ひたり しに、あはれもさめて①をかしかりけり。さる導師のほめやう やはあるべき。
また、「人に酒勧むるとて、おのれまづたべて、人に強ひ奉らんとするは、剣にて人を斬らんとするに似たる事なり。二方に刃つき bたるものなれば、もたぐる時、まづ我が頸を斬る故に、人をばえ斬ら ぬ なり。おのれまづ酔ひて臥し cなば、人はよも召さじ」と申しき。剣にて斬り試みたり ける にや。いと②をかしかりき。
口 語 訳
人に先立たれて、四十九日の法要にある僧を招いた時、説法がすばらしくて、皆人が涙を流した。僧が帰った後、聴いていた人たちが、「いつにも増して、特に今日は尊いお話に思えました」と感心しあっている返事に、ある人が言うには、「何はともあれ、あれほど中国渡来の犬に似ております僧でありましたからなあ(そりゃ、尊いわけです)」と言った所、感動も冷めて面白かった。そんな僧のほめ方があるだろうか。
また、「人に酒をすすめるといって、自分がまず飲んで人に飲ませようとするのは、剣で人を斬ろうとするに似ている事だ。諸刃の剣であれば、持ち上げた時、まず自分の首を斬るから、人を斬ることができない。自分がまず酔って横になってしまったならば、ほかの人はまさか召しあがらないだろう」と申した。
剣で斬ろうとしたことでもあるのだろうか。たいそう面白かった。
問 題
問一 a・bの助動詞の文法的意味と活用形を答えよ。
問二 c「な」と同じ品詞のものを次から一つ選んで記号で答えよ。
(ア)花咲きなむ。
(イ)花咲かなむ。
(ウ)その人かたちよりは心なむまさりたりける。
(エ)東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ
問三 次の(1)~(4)の( )内の助動詞を正しく活用させて書け。
(1)清盛公いまだ安芸守(たり)し時
(2)五十の春を迎へて、家を出で世を背け(り)
(3)昼ならましかば、のぞきて見たてまつり(つ)まし
(4)この男、垣間見(つ)けり。
問四 傍線部①・②「をかしかり」とあるが、作者はどんな事についてそう思ったのか。①・②の答えとして適当なものをそれぞれ一つ選び、記号で答えよ。
(ア)法事で人々が涙を流している時、場を盛り上げようとしてある人が皆を笑わせたこと。
(イ)法事の折、人々が説法に感動している時、ある人が導師を嘲笑したこと。
(ウ)ある人が、人に酒を勧めることを剣で人を斬ることに例えたこと。
(エ)ある人が、人に酒を勧めようとしたが、先に寝てしまった失敗談をしたこと。
模 範 解 答
問一 a 完了 連体形 b 存続 連体形
問二 (ア)
問三 (1) たり (2) り (3) て (4) て
問四 ① (イ) ② (ウ)